html>

 

たとえば一輪の草花

たとえば一枚の葉書

たとえば一個の小石

 

それがすべて『ひとつ』の特別になる

 

恋という…魔法


すうべにいる

 

<SIDE.A>

 

「アル…食事に出るけど、どうする…?」

いつになくはっきりしない物言いは例によって一人で動きたい証拠。

案の定、断るとほんの少しだけ、ほっと肩から力が抜けたのがわかった。

 

(言うと怒るけど…わかりやすいよね、兄さんって)

多分そんなところがあの大佐も気に入ってるんだろうけど…と、一人頷く。



エドは予想もしてないだろうが、アルは大佐との関係に結構早くから気付いていた。

(というか…気付かされた…?)

徹夜で資料を調べると言って出掛けた後に、必ずどこかに残されてる赤い跡。

エド自身では見えない位置にあざとく残されるソレの意味が、わからない程子供でもなく。

幾分の牽制を含んだ痣が十を越えた時

「家の害虫駆除してくださいね」と大佐にやんわりと釘も刺した。


それでも結局黙ってたのは…

(兄さんが…シアワセそうなんだよね…悔しいけど)

そうでなきゃ絶対に許せなかった。

今でさえ…複雑な気分なのだから。



もの思いに耽っている間に、気付けばエドの足音は階段を降り遠ざかっていく。

よく聞くと片足だけ微かに重い響き。

聞き慣れたそのリズムが軽く聞こえるのは、多分、気のせいじゃない。

大佐の居る東部から離れたこの町で、あんな風に出掛ける理由は一つしか思いつかず…。

(まったく…兄さんがあんな性格だったなんて…思いもよらなかったよ)

ため息まじり、アルは初めてエドの跡をこっそりつけた日を思い出すのだった。

 

 

その日兄さんを追い掛けたのは、偶然。

コートを着ずに出掛けたのに気付き(普段ならほっておくのに)空模様が気になって、

しかたないな…とコート片手に部屋を出た。


言ってたはずの店に姿は見えず、おかしい、と…まさか、また僕に黙って何かしようとしてるのか、と…。

思って辺りを探せば、案の定一つ隔てた道を見慣れた後ろ姿が走っていく。

「兄さ…」

呼び掛けた声を飲み込み、僕はこっそり跡をつける事にした。

だって、どう考えても素直に教えてくれると思えないからね。

鎧の体は目立つし煩いし…尾行には思い切り不向きなんだけど、

賑やかな宿場町だったのが幸いして、なんとかバレずに店まで辿り着く。

だけど。

(…ここ?)

それは何の変哲もないみやげもの屋で…。

ついでに言えば兄さんは…あろうことか、なんだか置物だのお守り石だのを物色してて…。

(…え、と。この地方に赤い石の言い伝えとか…なかった…よねぇ)

だって、あの兄さんが、だよ?

どうにかして合理的な理由を見いだしたいと、僕の頭はフル回転するけど…

その願いは、嬉しそうに兄さんが指輪を手に取った時点で霧散した。

…しかも自分の親指辺りでサイズ確認してるってことは…。

(…大佐に?)

信じたくない兄のバカップルぶりに思わず頭を抱え込んでしまう。

(んなもん買ったら…縁、切る…切りたい)

切なる願いが届いたのか、その日兄さんが買ったのは

小さな…それはこっそりいつもの鞄に忍ばせれるくらいの…水晶の置物だった。

それから兄さんの買い物は恒例行事となり

気付かれてないと信じては、無駄な言い訳を繰り返して町へと繰り出していく。


そうして僕は…。

大佐の家を訪ねるたび増えている暖炉の上の置物達を

(またこれが揃って趣味が…ね)

いつ頃指摘しようか、その時兄さんはどんな反応するんだろう…

なんて、とりとめなく考えてたりする。

 

 

<SIDE.E>



…ばっかみてぇ…。

とは毎回思う。…思ってはいるんだが。

 

ため息ひとつ、俺は目の前の景色を眺める。

生憎と今夜宿を取った町は小さく、ここも宿屋というより民家に近い。

半分野宿覚悟だったから有り難かったが、落ち着くとほんの少し欲が出てしまうのは…許してほしい。

だって

目の前に広がるのはただ一本のメインストリート。周りは数える程の家。

(昼飯食べた炭鉱でなんか買っとけばよかったかな…)

考えて、ぶんぶんと首を振る。

なんで、俺が、あんなヤツの為に、悩んでやんなきゃいけないんだ!


事の起こりは…何時だったか。

例によって大佐の家に引きずり込まれた、翌朝…。

(なんで翌朝か、とか聞いてくんなよ!?)

鞄の中から転がり落ちた一個の木彫りの人形、それがキッカケ。

掌に収まる小ささのそれは、ある町で置き引きやってたガキから買い取ったもので。

まぁ…その件についてはなんやかや経緯があるんだが、それはまたの話。


「おや?これはまた珍しい物を」

拾い上げた男の瞳は明らかに説明を求めていて。

記念品つーか証拠物件つーかを落としてしまった俺としては、ひたすらに笑うしかなく…

「えー…それは〜あの…」

「なにやら土産もののようだが…」

「そ、そうそう。…土産買ってきたんだよ、アンタに。だけど…」

慌ててた俺は大佐の振ってきた話に飛び乗った。

早い話が嘘なんだけど、けど…。

…そういった途端、ロイはにっこりと、そりゃ嬉しそうに笑ったんだ。

(反則じゃん!んなの)

「そうか…鋼のが…私に」

何度もそれを掌で転がして眺める姿に、色んな意味で汗が出る。

「い、いや…でも…全っ然たいしたもんじゃないし…つーか、どちらかと言うと…不…」

「何を言うんだ、鋼の」

部屋に不釣り合いだから返して欲しい…と言い出す前に、

ロイはさっさと暖炉の上の棚に(つまりは俺の手が届かない処に)そいつを上げてしまった。

「たとえどんなものでも、鋼のが私の為に選んでくれたと思えば、どんな宝にもかえがたいのだよ」

…なんて…どキザな台詞を添えて。

(つーか、今、微妙に強調しやがったな、このヤロー)


だけど結局…余りに嬉しそうにされた罪悪感に負けた俺は…

なんとなく次の旅の時、今度はきちんとロイの為に選んで。

「旅先でこれを選んでいる時、束の間でも私の事を考えてくれている、そう思うだけで幸せなのだよ」

んなクサイ台詞思い出して顔が熱くなる。


でもまぁ、俺たちの旅の軌跡が(そんな形でも)増えていくのを見るのも悪くないかと…そう思えるから。


「ま、いっか…」

俺は足元の石を幾つか取り上げると、綺麗な色のヤツを掌に握り締める。


この小石だって、今日の出来事を語りながら渡せば、きっとロイは飾ってくれるんだろう。


「しゃーねーよな…」

呟いて俺はポケットにそれを収めた。

微かに青みがかった…誰かの軍服を思い出させる…その石を。

 

<SIDE.R>


何時の間にやら暖炉の上を占領した置物達。

余りに周囲と不似合いのそれに、以前迎えにきたハボックが首を傾げ

「鋼のからの土産だ」

と告げれば、あぁ〜大将らしいッスね、と苦笑していた。

毎回増えていくソレは予想外の驚きで、

よくまぁ素直にハマってくれたものだと、可笑しくなる。


最初に飾られたのは木彫りの人形。

その日の事を思い返すと今も口元が弛む。

(あの時の慌てぶりは…絶妙だったな)

朝、ベッド横に投げられたままの鞄から、何の偶然か転がり落ちた木彫りの置物。

一瞬にして顔色の変わった様子を見れば、それが例の宿場町のもめ事に関係してるのも、

そしてそれを自分に隠そうとしてるのも見てとれて。

(というか…あれだけの騒ぎを起こして私にバレてないと考えるあたり、まだ子供なんだが)

役人一人動くのも、しがらみだらけの地方で。

(まったく、誰が事後処理してると思ってるんだか…)

悪党をやっつけました、ちゃんちゃん…とは終らないのが現実社会なのだ、悲しい事に。

だが、いましばらく鋼のには好きに動かせてやりたい、と…それが自分の甘さと知りつつ思ってしまう。

だから今回も見逃すつもりだった。

が。

(軽く遊ばせてもらうとするか)

あまりに素直な狼狽振りに…その時、小さな悪戯心が生まれたのだった。

 

 

慌てた顔がなんとも可愛い。

(…などと言おうものなら、何を錬成されるかわからないので口にはしないが…)

どうやら起き抜けの突発事態に頭がついていかないらしい。

いつにない反応に笑みが零れそうになるのをぐっと押さえ

「土産もののようだが…」

と、どう贔屓めに見ても子供の手作り以外考えられない出来の人形を手に惚けてやれば、

ここぞと乗って墓穴を掘ってくる。

「そ、そう、あんたへの…で、でも…」

言い訳などはさせない。

欲しい言葉を引き出せば、あとはこちらのペースだ。

「それは…嬉しい驚きだな、鋼の」

他の女性には言ったこともない甘い台詞が自然と口をついて出る。

「君が旅先で私の事を思い出してくれた…という事だろう?」

何を…って顔しながら流されてるのが判るから、ここから一気に陥れる。

にっこりと、悪意を隠した善意の笑みで。

嘘を承知で騙されてやれば、案の定罪悪感たっぷりの表情で見上げてくる。

(私を謀ろうなど百年早いな…)

ここまでくれば、あと一押しで完了。

これから旅先で悩む事は予想にかたくない。

(まったく可愛いものだ…)

心の声はおくびにもださず、そのままベッドへともう一度引きずり込む。



 

エドは、隠し通す事に必死で気付いてないが、みやげを買う…と言う事は渡しに来る、という事で。

しかも、あの性格では司令部や他人の前で渡せる訳もなく…。


そこまで考えて苦笑する。

どうやら自分は、帰ってきた時どうあっても捕まえたいらしい。

おざなりの報告書を出して消えようとする相手を。

(そのための布石…という訳か?)

ロイ・マスタングともあろう者が一回り以上下の少年にムキになるとは。



こみあげてくる笑いは、それでも決して不快なものではなく。

ま、それもまた一興…と、一筋縄ではいかない恋人に今日も想いを馳せるのであった。



………なべて世は事もなし。

 

 

THE  HAPPY? END

春休み中、日記に書きなぐっていた表小説です。
おかげでRなし・超ほのぼのバカップルもの♪
それでもロイが微黒なのは…まあ、うちだから 
たまにはこんなのもアリかな〜と…いうことで、ひとつ(笑

inserted by FC2 system