WEB拍手で掲載したSSです。

これがきっかけで裏まで出来たと言う…天然エド騙し系シリーズ

何の躊躇もなく、大佐を変態に出来て楽しかったです(待っ

美味しい猫の作り方 編 

「なんだ〜っ!? これ!??」

朝の爽やかな空気を揺らす予想通りの叫び。

寝た振りの背中が笑いで震えないようにゆっくりと、
今起きたふうを装って伸びをしてみせる。
そう、あたかも、エドの叫びで起こされたかのように。


ああ、状況から邪推されてはかなわないので断っておくが、
エドとは未だAダッシュ程度の清い付き合いだ。
私としては先に進む事やぶさかではないが、相手の年齢・意思を尊重している。

誰だね、そこで《若紫…》とか呟いているのは?消し炭がお望みかな?
いや、まぁ…ともかく。そんな訳で。


「…どうしたんだ? 朝から賑やかだな?」
「え、あ…た、大佐…!? いや、そのなんでもないから!!」
叫びとともにシーツを被るが、慌てすぎて
そんな薄い布一枚では隠しきれてない事にも気がつかないらしい。

バカな子ほど可愛いとはよく言ったものだ。

「なんでもなくは、ないだろ……」
言いながらシーツを引き剥がし、現れた姿に息を呑んで見せれば
案の定、半泣きの上目使いで。
寝乱れた金髪からぴょこんとのぞいている耳がなんとも愛くるしい。

寝ている姿も絶品だったが、こうして座り込んだ姿に猫耳というのも
なかなかにそそられる。言えば拳固が飛んでくるので決して言わないが。

「……どうしたんだ、その…その…耳?…は?」
ここまでくると我ながら演技賞ものである。
いつか、この演技力が仕事の役にたつこともあるだろう。
が、今はその時ではない。発揮する相手は100%エドである。

「わ、わかんな…っ起きたら…」

起き抜けに理解の範疇を超えた事態に遭遇し、
すっかり子供に帰ってしまっているのか、言葉がたどたどしい。
自分でなければ普通一緒に居る相手を疑わないか?
しかも、お互い錬金術師だというのに…。

「…ふむ。どう見ても猫の耳のようだが、なにかと心当りは?」
「ねーよ、んなもん!」
「原因がわからなければどうしようもないな…」
肩をすくめて見せれば、えぐえぐ…と泣きながらしがみついてくる。
「どーしよー、たいさぁ…おれっ…おれっ」
いつもの強気はどこへ行ったのか…。たまにはこういうのも趣があっていい。
よしよしと抱き締めてやりながら外道な事を考えるが、いかんせん時間がない。


「どうする?私は司令部に行かなくては、だが…」
一緒に来るか?ホークアイ中尉なら可愛がってくれるぞ。
軽口にもふるふると神妙に首を横に振り、食べてくれといわんばかりだ。
こんな状態で人前に出せるわけがない!

じっとしてると約束させて、司令部に出かける事にした。


おみやげは紅い首輪がいいだろうか?エドの金髪に良く映える。

 

◆ ◆ ◆

「こんの、クソ大佐〜〜〜っ!!!」

帰ってきた時、飛んできたのは罵声と枕が同時で。
どちらも、まぁ、八割がた予想通りなので堪えはしなかったが。

「随分な挨拶だな。朝、あんなに不安そうだったから、中尉に怒鳴られても
仕事を放り出して帰ってきたというのに」
「ふざけんな!…てめぇ…これ、なんだよ?!」

言いながら突き出してきたのは一枚の錬成陣。

「これっ!…こんなもん生やしやがったの、てめぇだろうが!?」
怒り心頭、とばかりに真っ赤な顔で喚く姿も、耳付では迫力にかける。
愛玩犬か子猫がきゃんきゃんと鳴いているようで微笑ましい。
つい、別の啼かせ方をしたくなるが、まだまだ我慢である。

「おや、もう見つけたのか」
見つかるように置いておいたのだから、当たり前だが。
困ったふうに驚いて見せれば、いきなり噛み付いてくる。まったく思う通りの反応。
「何で、ンな事しやがった!?…元に戻せ、とっとと!!」

「…そんな口をきいていいのかな?」
「な、なんだよ…」
「構築式が判らないから、解けるのは私だけだろう?」
「う……」

降参したかと思った次の瞬間、
「全部がわかんなかったわけじゃない。髪の毛となんかを錬成させてんだろ?」
それなら髪の毛ごと切り落としてやる!と、とんでもないことを言いだす始末。

「切っても良いが…余りお勧めはしないな」
根元から繋いであるから、切り落とせば二箇所全く髪の毛がなくなってしまうよ、と。

「いわゆる『円形脱毛』が両側に出来ることになるからね…」
かなり恥ずかしいんじゃないかな、耳より。
にっこりと笑って、ん?と問いかけ、エドが観念するのをまつ。

「……どーしたらいいんだよ?」

「実は私もペットを飼ってみたくてね、中尉のように」
半ば予想していたのか、エドの首がかっくりと垂れる。
「………ばっかじゃねぇの?」
「金髪のかわいい仔猫なんて、男のロマンだろう?」
「それ、ぜってぇ間違ってるし…」
溜息まじりの突っ込みは、もう諦めたも同然。

「そうだな弟君の手前もあるだろうから…三日間でどうだ?」
「選択の余地、あんの?俺に?」
「大丈夫。ペットに服は要らないだろ、なんて言わないでやるから」
「話、かみあってねえし……」



黒のタンクトップ、金の髪、赤の首輪…。

やはりよく映える。 予想以上だ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

帰宅して余りの惨状に目を覆う。

「にゃ〜〜〜!!!」

元凶は、涼しい顔で猫の声。
しゃがみこんでそっぽ向く姿に揺れる耳が絶妙に可愛い。
そりゃもう、思わず押し倒…自主規制…なほどだ。

が、しかし、ここは飼い主としてまず怒らねばなるまい。
「エド!これはいったい、どういうことだ!?」

つーーーん!

擬音がバックに大文字で現れそうな勢いでエドがシカトしてくる。
怒っているんだぞ!拗ねているんだぞ!!俺は不本意なんだ!!!
そういう主張ありありの態度。まさに猫そのものなのだが、本人は気づいてない。

しぐさ全てがツボ押しまくりの愛くるしさで、そりゃもう押し付けてグリグリと
愛でてやりたいのだが(何を?愚問だな)
ここで甘やかすのは今後の為にも良くない。罪には罰を。しつけの基本。

「エド…このカーテンはどうしたんだ?」
「………登ぼろーとした…」
カーテンレールから外れ、床にだら〜んとだらしなく垂れ下がるカーテン。
その先には中の羽根が飛び散った(元)枕。
「この…枕は?」
「爪、といだ」

その他の惨状は語るに落ちる。
要は子猫を閉じ込めて出るとこうなる、と思いつく限りの悪さをしたらしく。
「…………エド」
「にゃあああぁ〜〜ん♪」
猫だからわかりませ〜ん、と言わんばかりの姿を捕まえると
押さえつけ膝の上にうつぶせにし…ズボンを下ろす。

「なっ!何すんだ、バカ!」
「バカはおまえだろう! 口でわからない子にはこうやって躾けなきゃな」
ふるりと揺れたピンクのおしりは鼻血ものに凶悪だ。
が、そんな気配はおくびにも出さない。
そのままパン!と一回叩いたら、ビックリして固まった後泣き出してしまった。

「…っく、…えっえ…ごめ…ごめんな、さ…」
可愛すぎる。
ここで泣き落としは卑怯だと思うが、あまり警戒されるのもまずいので
今回は一回で止め、よしよしと抱き寄せてやる。
ひっくひっくと、しゃくりあげる様が例えようもなく愛しい。
腕の中で息も出来ぬほど啼かせてみたいと、改めて思った。

「あんまり悪さしてると、今度はしっぽもつけてますます猫にしてやるぞ?ん?」
冗談めかして言えば、許されたと思ったのか泣き笑いの顔で。
「…ん、なことしたら、人体錬成じゃん…ばーか」
言って、頭を胸に摺り寄せてきた。耳がくすぐったい。


人体錬成などと物騒な真似をせずとも、しっぽくらい生やせるのだが…
まぁ、それを教えるのはもっと後になってからで良かろう。


増えた楽しみに浮かぶ笑いをこの子は知らない。

 

◆ ◆ ◆

 


「にゃお〜ん」
「にゃ!?」

最初は本物、後は偽者。

懲りて大人しく待ってた『子猫』は目を丸くする。
なぜなら。
「いや、どうしても飼えないからと知り合いに押し付けられてな」
私が腕に抱いて帰ったのは、小さな小さな…本物の子猫だったのだから。

「……どーすんの、それ?」
帰ったら甘えられる、と、本でも読んで待ってたのだろう。
行く後、行く後、とことことついて回り、まるで子供のようだ(いや、子供なんだが)

「捨てるわけにもいくまい、こんな子猫だ…と、ミルクはぬるめがいいのか?」
わざと振り返らず背中を向けたまま、子猫に集中してみせる。

目の前で無心にピチャピチャと皿からミルクを舐めるさまは、
なんとも可愛く煩悩をかきたててくれるのだ。
もし、エドが…と。 表情が多少緩むのは仕方あるまい。

と、その妄想に気付いたわけでもあるまいに、エドが背中に貼り付いてきて
「オレもっ!…オレも、皿で飲むっ!!」
………思わず想像し眩暈を感じる。エドの小さな舌がぴちゃぴちゃと…

「何、バカな事言ってる…」
が、そこはポーカーフェイスで、しらっとした顔で振り返る。
帰宅して初めてまともにエドを見てやればあきらかにホッとした様子。
が、ここでさらに追い討ちをかける。
「ああ、そうか……」
ポケットから錬成陣を書いたハンカチを取り出し、頭に被せて発動させれば。

「あ?!」

ぽとん、と床に何かが落ちる音とともに、エドの髪がさら…と流れた。
「…みみ…?」
「すまなかったな、一日早いが…楽しかったよ」
「なにそれ!?」
ほどけた金の髪がきらきらと反射してエドの怒りを表す。
「なんだよ、なんだよ、それ!? 本物がきたら、もういらないって事?」
目にいっぱい涙を溜めて、ふーふー唸ってる姿は猫以上のキュートさで
自分がなんで怒ってるかもわかってない鈍さ共々、最高に愛しい。

「そりゃ、オレっ…猫じゃないし…かわいくないし…」
いや充分だ。殺人的に可愛い。絶対言わないが。
そんな私の沈黙を勝手に解釈しエドの思考は暴走していく。
「だけどっ…アンタが…そんなふうに、猫ばっか…。…ばか!ばか!!」
不意にぎゅっとしがみついてくると、ぽかぽかと胸を叩く。
エド、それは私の理性への挑戦か?

「やだよ、他のもの…見てちゃ…オレが居るのに、ここに…」
やばい、反応しそうだ。可愛すぎる。どうしてここまで思う壺なんだ、おまえ。
自分で仕掛けといてなんだが、行く末が心配になる。

「オレ、なるから…。大佐の、ロイの猫に…」
消えそうな呟きに、ほくそえんだその時。


ピンポ〜ン!ピンポンピンポンピンポン!ピンポーン!!

激しいチャイムの音。次いで、ドアのノックと叫び声。

「おぉ〜〜い、ロイ! スマンが仔猫返してくれ〜!!」
「……ヒューズ、中佐?」
エドが我に返る気配。舌打ちしたい気分でエドを抱き締める。なんて、間の悪い!
それでも声はやまなくて。
「たのむよ〜、エリシアちゃんが泣き出しちゃってさ〜。猫さんどこ〜って」


ブツっ!

腕の中で何かが切れた音がした気がする。
「〜〜〜〜ローイー!?」

やっかいなことになった。
頭の中でまだエドに見せた事のない学術書を検索しつつドアへと向かう。



腕の中で逆毛を立てて唸ってる『仔猫』を宥めるには、どの『またたび』がいいだろう?



マスタング大佐のまめまめいじり
<美味しい猫の作り方> END

 

 

 

 

 

 

ここからよもやシリーズ化しようとは(汗

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