WEB拍手で掲載したSS第2弾です。

天然エド騙し系シリーズ

今回はRINXのじおさんの絵付Vv



<その2>

♪楽しい ごはん♪


1)あるいはハボックの不幸な日常


物を食べる、と言う行為はエロティックだ、とは
上司であるロイ=マスタング大佐の常々からの主張である。

舐める、口に入れる、ほおばる、しゃぶる、噛む、飲み込む…
どれをとってもなにやら思わせぶりだ、と。


確かにそれに異論は無い…ない、が。
そう心で呟きながらジャン=ハボック少尉は溜息をつく。
(別に、実証してくれなくても、いいんすけど……)


そう…書類の影で頭を抱えるハボックの前で
それらの行為を全て、無心に行っている存在が、いる。
言わずと知れたエドワード=エルリック、鋼の錬金術師。

しかも。

「ほら、口開けて…」
「ん、あ〜ん♪…むぐむぐ…」
「美味しいかい?エド」
「うんっ!」

などと言う、ありがたくも無いオプション付で……。

(なんだろうなぁ…この状況…)




話は朝にさかのぼる。

いつもは重役どころか横綱出勤の大佐が、
朝一から司令部にいたのがまず異変の始まり。
最初に響いたのはホークアイ中尉の叫び。

「まあ!エドワードくん…その手はどうしたの?」
見れば包帯で両手ぐるぐる巻きのエドがちょこんと大佐の横に。
「…今朝、ふたりで朝食を用意していたんだが…」
微妙に強調しつつ大佐が説明を加える。
「渡した皿のエド側がコンロの熱で焼けていたらしく…
 軽く火傷してしまってね。それでは不便だから私が身の回りの世話を
 することにして連れて来たのだよ」

責任もあるしな、と楽しげに告げられては絶句するしかない。


十中八九、大佐の陰謀だと思うのだが、
信じきってるエドを見ると強い事も言えず
(だって、嫌われたかないだろ?)
ただただ俯くしか、無い。中尉もいるし……大丈夫、だよな?



不安を他所に、午前中はすこぶる平穏に過ぎた。
いっそ平穏過ぎて怖いくらいだ。



『大佐って、いっつもこ〜んなにお仕事してるんだぁ、すっごいねぇ』
…光線を瞳から出しているエドワードは、中尉の言葉どおり、
大佐の邪魔にならない、かつ、やる気をもたらす最高のポジション…
斜め前にちょこんと腰掛け
「うん?…」
「ん、なんでも、なんでもない…から。…早くお仕事、して?」
などと小首をかしげて大佐の顔を覗き込みながら、言う。

はっきり行って『やってられっか!』な会話。

が、コレで、大佐の能率が上がり、ひいては俺らの残業が減るのなら、
耐えて見せましょう、神様…てなもんである。

そして、運命の?昼が……きた。




2)東方司令部昼下がりの受難


ここで話は冒頭に戻る。

「ほら、エド。もっと大きく開かないと入らないぞ」
「え?…ん、ん…ぁうん…」
執務室は不自然なほどの静寂に包まれていた。
なぜなら……。

部下全員の目の前で、エドワードの小さな口に
余るほどのフランクフルト(棒つき)を銜えさせているのは
どう考えてもセクハラだと思う。
しかもご丁寧にた〜っぷりのケチャップをつけて。


「ほら、零れるぞ。気をつけて」
言われれば慌ててエドの舌がつーっと
太いフランクフルトを舐めあげて…。

「う!」
ガタガタガタ…っ!
まずフュリーが鼻を押さえて出て行った。若いな。
まぁ、わからないでもないが。
なにせ、大佐は見せつける気満々なのだから。

「おいし!」
「そうか、よかったな」
わざと斜めに持ってエドに銜えさせておいて、そ知らぬ顔で微笑む。
(……さすがです、大佐)
その光景は俺らの位置を充分に計算に入れたもので。

かぷ、と先に齧りつくエド。
「痛…っ!?」
何かに感情移入してたらしいファルマンが小さな声をあげた。
集中する視線。

「ど、したの?だいじょぶ?」
自分が元凶とも知らず心配げに見やるエドワード…の背後で
大佐が発火布の手袋を取り出したのが目に入る。

……3秒後、ファルマン戦線離脱。



いまや部屋に残るのはブレダ少尉、ホークアイ中尉…
そして俺、ハボック少尉の3人だけである。

しかし、ブレダ少尉を見やれば…
「アレは犬だ、犬だ、仔犬なんだ…怖い怖いこわい可愛い…違う怖い」
なにやら自己暗示の真っ最中である。

触らぬ神になんとやら。

間もなく自爆、が見えた彼を見限って
俺は素朴な疑問を中尉にぶつけた。
「どーして、今日は止めないんすか?!」

そう。いつものホークアイ中尉なら、いまごろ大佐は蜂の巣だろう。

が、帰ってきた答えは予想外のもので。
「可愛いから」
「へ?」
思わずマヌケな声が出たのは見逃して欲しい。
いま、このひと、なんつった???

「…冗談よ」
いえ、顔が全然冗談じゃなかったんスけど!!?

こほん、と咳払い一つ。俺に振り向くと小声で問いかけてきた。
「ハボック少尉。ここまであからさまに大佐が仕掛けるのは何故だと思う?」
「え?そりゃ、なんつーか…俺らに見せびらかしたいとか?」
「……甘いわね。相手は大佐よ、
 エドワード君のどんな姿も独り占めしたいに決まってるわ」
「え? じゃ、なんですっか?」
「そこよ」

中尉が言うには、おそらく大佐は
全員を執務室から追い出したいのだ、と。

「そして二人っきりになったら…この部屋には鍵がかかるわ」
わかるでしょう?そう言われ、俺はこくこくと頷いた。

だが。
(すっげぇ、楽しそうに見えるのは…俺の気のせいですか…中尉…)

いずれにせよ、自分に残された道はここに踏みとどまる事なのだ、と
ジャン=ハボック少尉は肩を落とすのであった。




3)甘いのは俺の考えかデザートか



「たいさぁ。おれ、デザート食べたい

ひとしきり煩悩を撒き散らしながら、
ゆっくりとフランクフルトを食べ終わったエドは
あどけなくそう告げる。口元からのぞく白い歯、紅い舌。

ああ、更なる拷問を俺ら(除く1名…多分)に課そうというのか、神よ!!

「…もういいのか?余り食べてないぞ?」

そう言ってごそごそ開く袋の中は、
アメリカンドッグだのチュロスだの…白ソーセージだの…
(何で、太くて長くて大きいものしか買ってないんすかっ!?)

「だってぇ、もうおなかいっぱいだもん」
「そうか…しかたないな」
一見ほほえましい光景の筈なのに…背筋が寒い。
大佐、もしや上の口がいっぱいなら…とか考えてません? 
…なんスか。その笑みは!

あまりありがたくない予感は正解のようで。
俺としては妄想で終わる事を祈るばかりだ。

「大丈夫よ、少尉。まだそこまでのプレイはできないわ」
手を出せているかも疑問ね、って
…何あんた俺の心読んでるんですか、中尉!

俺の横では既に半分白目のブレダ少尉が、
それでも律儀に新聞読むふりを続けて。
でも少尉…それ昨日のヤツな上に逆さっすよ。

そんな俺らを尻目に、
エドは大佐の膝の上によいしょとばかり乗っかって袋を漁る。
「見えるかい?エド?」

両手包帯じゃ中々上手く探れない様子のエドを…その腰を、
大佐が少し持ち上げる。

(げ!…その体勢は〜!?)
なまじ半分机で隠されてるのが劣情を煽る。
一瞬そこに吸い寄せられた3人の視線に、ニヤリと笑い返すと…
「あん!」
大佐は支えてたエドの腰をパッと離す。途端、ほんの少しだが下に落ち
エドの口から可愛い悲鳴(嬌声だろ、ありゃ!)が漏れた。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
視界の隅をブレダが走り抜ける。
何か赤い液体も見えたが…気にすまい。

「ん〜〜!もうっ!大佐、じゃましないで!…探してるんだからぁ」
「ああ、すまんすまん」
でも、エドが欲しいのはこれだろう?
そういってもう一つの袋からシュークリームを取り出してみせる。
「あ、そう!なんだぁ、そっちにあったのか」

(…確信犯だよ。…今まで隠してあったじゃないか…)
余りに疑う事を知らない姿に目頭が熱くなる。
が。すまん、大将。それでも俺に大佐に逆らう勇気は、ない。

「ほら、あ〜ん」
あまり聞きたくない上司の甘ったるい声。
素直に口を開けるエドにやはりどう考えても大きいシューを突っ込む。
「ぁん、…ん、ぅむ…ん…」
勢いよく噛み付いたはずみで、エドの口や頬にカスタードが飛び散った。
「んっ…ケホンケホン…」 小さく咳き込むエドワード。

(…つーか、いま…ついでに押し付けましたね、シュー…)
粘りのあるそれがとろりと幼いエドワードの唇から漏れる。

「ああ、ほら…しかたないなぁ。慌てずに食べなさい」
指で頬のクリームを掬い取るとそのままエドの口に運べば…。
「ん」
ぺろぺろと紅い下が舐め、そのまま口中に指を誘い込む。
大人の指2本、銜えて閉じきれない唇。


「……中尉…俺リタイアさせてください…おねがいっす」
情け無い話、既に俺は…中腰の姿勢で。
二人きりにならなきゃいいなら、
中尉が(そりゃ楽しそうに)みてるから大丈夫では?
そんな思いが駆け巡り小声で泣きつく。

が。
「ダメよ」
返ってきたのは無情な宣告。
「アナタの役目はまだ終わって無いわ…あと少し頑張りなさい」
って、何すか、その『役目』って??


それがわかったのはドアが勢いよく開いた時だった。



4)恋敵は少年を大人にするか?



「スイマセン、こちらにマスタング大佐…は…いらっ……」
ドアが開くとともに室内の静寂を破った声は、そのまま小さくなって。

(あっちゃ〜)
俺は密かに頭を抱える。だってそうだろう?
鋼の錬金術師を膝に載せ指を舐めさせてる焔の錬金術
…なんて格好の噂の的。
(なんで鍵掛けとかなかったんすか〜中尉!?)
けれど、俺の狼狽を他所に…それらは予定の事だったらしく。

「やあ、よく来たね。迷わなかったかい?」
大佐は…今まであ〜んなに大将をかまってた大佐は、
そそくさと立ち上がり迎えに行く。
あっけに取られる視線の先には、
大将と同じか少し大きいくらいの…少年。

流れるように会話を誘導しながら、
同じ様になめらかに彼をソファへと導く。

(…このへんが…天性の、タラシなんだろうなぁ)
愚にもつかぬ事を考えていたら脇をホークアイ中尉につつかれた。
「……そろそろよ、準備なさい」
なにが?……中尉できれば俺にもわかる言葉で話してください。

「……ロイ、そのこ、誰?」
楽しい楽しいデザートを邪魔された、とばかりに
不機嫌丸出しでエドが問いかける。
「ああ。そうか、君たちは初めてだったな」
紹介しよう、と大佐が告げるには。

先日の訓練でド田舎にとばされた大佐が、
遊びに来たアームストロング少佐やヒュ−ズ中佐と
『たまたま』出かけた山の村で出会った少年だ、と言う。
「結局。つり橋が落ちて何日か滞在させてもらったんだよ。懐かしいなぁ。 皆は元気かい?」

ああ、と合点がいく。
確か、武器を作る技術者の村で…
実は極秘捜査だったのだと後で知ったとかいうアレね。
本人は話したがらないが、
詳細は同行の二人によって写真つきで聞かされている。

しかし…さっきから上手〜く会話してるが…
一度も大佐の口から彼の名が出ない。
ということは…。
(大佐、あんた…名前覚えてませんね!?)
タラシコマシの名を馳せる上司だが、
意外に自分の興味の無い相手には冷たい。
しかし、と。考える。
それにしてはこのもてなしようはおかしい。
向かい合って座りニコニコと微笑む大佐
かたや少年は村を救ってくれた大佐に憧れの瞳をむけ…。

(あ!……はは〜ん)
傍らで憮然としてるエドの様子に、一気に合点がいく。
(なるほど、ねぇ…大将も気の毒に…)
おそらく、この子が来ることを知って、
大佐はエドを火傷させ連れてきて甘やかし…。

そして放置したのだ。

その目的は、と考えると恐ろしくて口にする気ににもならない。


「……ロイっ!俺まだ全部食べてない!」
ついに焦れたエドが二人の間に割って入った。
「何、お前?人が話してんのに無礼じゃない?」
「じゃ、食事中に入ってくんのは礼儀にかなってんの?」
「メシくらい一人で食えばいいだろ?」
「一人じゃ食べれないから言ってんだろっ!?」

いきなり始まる口論。
はっきりくっきり小学生、しかも低学年レベルの、それ。

…を聞きながら、大佐…嬉しそうに笑わんでください…。
いささかげっそりしながら、
そうか俺の役目は『仲裁』か、と止めに入ろうとして…
中尉に制された。…なんでだ??
「黙ってみてなさい」一見冷静な言葉。
だが俺の目はその後、
彼女の口が『面白いから』と動くのを見てしまう、アーメン。

そして。
エドの包帯を見て少年が言った台詞が…起爆剤となった。
「あ?お前も包丁下手なの?」
そしておもむろに大佐に向き直ると笑って。
「あんたもニンジンやら切るのにボロボロだったもんなぁ
 …あのシチュー作る時…」

「なにそれ!??」
「だーから、野菜切るのにさ…」
「お前になんか、聞いてない! 
 ロイっ!!あんた、こいつにシチュー作ったの?!」
猫だったら今エドの逆毛は立ちまくってるだろう。
申し訳ないが、確かに可愛い。

「ああ、泊めてもらったから…等価交換というか…」
「ひどいっ!俺だってアンタの手料理食べた事無いのにっ!!」

ふーふー唸って涙目になったエドを、
一見わからないがにやけた顔で見つめる大佐。

既に様相はただの痴話げんかである。
(なんでここまで、思うツボなんだろうなぁ?)

「さ、ハボック少尉。出番よ」
あ、そーすか。俺の役目ってこの子のフォローなわけね。


あっけに取られてる少年の肩に手を回しドアへと導く。

「あー、なんだ君。なにやら揉めてるから…俺が町の中でも案内するよ」
ここは初めてなんだろう? 
聞けば『はいっ』と素直に笑う顔が……可愛い。

(ヤベえ。俺にそっちの趣味は無いはず)
上司に感化されたか? 
冷や汗で出て行こうとすれば、耳元に落とされる中尉の台詞。

「……とりあえず、合意の上で…にしてちょうだい。いいわね?」



わかってます…つーか、そんな事には、には…。あああ。


その後。
俺の身を呈してのフォローのおかげで事なきを得たおふたりさんは
いそいそと大佐の家に向かったという。

要は「ホテルにアルと泊まる」と言い出したエドワードを
『お持ち帰り』するための大佐の策略は成功したということで…。


エドが無事に『食べた』のか、はたまた『食べられた』のかは…
永遠の謎である。


おいしいごはん 編 完

WEB拍手恒例(?)まめまめいじりの第2段でした。

今回は掲載後イメージイラストを戴いたので
それと一緒にUPしてみましたVv

じおさん、ありがとう♪
豆いじりのエドは彼女の絵とイメージぴったりで
ホント、嬉しくなっちゃいました!!

 

BACK



inserted by FC2 system