これは「放課後〜」シリーズの(たぶん)ほのぼの番外編、でございます。

よって、ロイは変態天才科学者兼学園理事

エドはその助手にして恋人な設定の現代版パラレルです。

しかもコメディ・いまさらバレンタインネタ…_| ̄|● 

「どんとこいOK」な方はずずいとスクロールしてやって下さい。





















                   バレンタイン
〜愚者 の 贈り物〜






「…よ、し。できた」

試験管一つ大事に抱えエドワードはほくそえんだ。



午後の学校、実験室。

ほかに誰もいない空間で、ミニスカートに白衣を纏った少年は

蛍光灯の光にきらきら揺れる液体をうっとりと眺める。



今『ミニスカ? …ん、少年?』と悩んだあなたは常識人である。

ちなみにエドワードもそういう趣味があるわけじゃない(と言っておこう)

むしろそれは彼の雇い主ロイ・マスタングの問題である。

そう、たとえロイの指示で女装してようと彼は立派な男の子だった。


話せば長いので、さくっとかいつまむと。

弟アルフォンスの病気のためお金が必要で、エドワードはここ鋼学園に就職した。

弱冠15歳のエドを高優遇で雇ってくれる場所はここ以外なかったが

上手い話には必ず何か裏がある訳で…。

その条件がロイのよからぬ実験の被験体と女装…というわけである。


ただそこから紆余曲折の後、その条件を出した変態(失礼…)の

『恋人』となり身も心も結ばれたとあっては、

一方的にロイばかりを責める訳にもいかないかもしれない。

(まぁ、身のほうはくっつく前から好き勝手されてたわけだけど)




……は、さておき。


ここ数日、自分の雇い主であるロイからの誘いも断って

実験に励んだ結果が今、この手の中にある。

一見何の変哲もない無味無臭の薬。だが、それは…。

「ま、あとは人体実験しかないよな〜」

物騒な事をさらりと呟いてニヤリと笑う少年。


天才化学者として名高いロイであるが、

エドだって過去にスキップで大学へと招かれたほどの天才児である。

一週間もあれば理論構築していた薬品を作り上げる事は無理ではない。

が。



続いて取り出したのは、小麦粉、卵、チョコ…と一気に趣の変わる材料で

実験室はあっという間に甘ったるい香りに包まれるキッチンとなった。

「まったく無駄に実験器具が多いから助かるよ、ここ」

いつも思うのだが、なんで実験教室にレンジやオーブンがあるのか。

実はこの学校内で生活してるロイの為だが、不自然極まりない。

「ま、おかげで家に帰らなくても作れるから便利だけどな」

粉で鼻先を白くしながらエドが焼き上げたのはチョコブラウニー…もどき。

「よっしゃ…上出来」


バレンタインからもう一週間以上過ぎたけど、きっと受け取ってくれるはず。

そううぬぼれる程度にはエドはロイの愛情に自信を持っていた。


ただ…ちょっとばかり普通のバレンタインと違うのは、

先程の薬がその中に混ぜ込まれていること。



だってそれは、ささやかな、エドのやきもちのエッセンスだから。







事の起こりはバレンタイン当日。生徒達の噂話からだった。


共学になったとはいえ男子がほとんどの学校とあって、

その日は朝から誰がが何個チョコを持ってたの誰に渡したのと大騒ぎで。

そのターゲットは女生徒のみならず当然職員にも広がっていた。

なまじ学生と年の近い「エルリックさん」も当然注目の的。

そんなわけで、エドは一応チョコは用意したものの

男子生徒たちの思わせぶりな視線がありすぎ、朝からロイに近づけずにいた。




そんな中、ふいとエドの耳に届いた気になる情報。

『ホークアイ先生がマスタング先生にチョコを渡したらしい』と。


まさかと思いつつ、それでも不安になってロイの私室に押しかければ

机の上に一つだけ大事そうに置いてある包み。

「……え?」

ここに入れるのは限られた人間だけで、ましてやロイが持って入ったのなら…それは。

(うそ…、そんな大事なチョコ、なのか?)


ガ〜〜〜ン! と大文字で背景に書き込みたいほどの大ショック。

だって自分はまだあげてないんだから、コレは確実に別の女性からのもの…。





ここで以前のエドであったなら、泣きぬれて蟹とたわむるところであるが

幸い(不幸?)にして人には学習能力というものがある。


ここでシリアスに落ち込んでもあのロイ相手ではエッチのスパイスにされるだけ。

(……しょーがねぇな、少し釘刺しとくか)

そう考えたエドを誰が責めれよう。



かくして、エドの秘薬作りが始まったのであった。










「ロイ…いる?」

小さくノックひとつ。

返事はかすかなドアのうねり。

化学実験室の棚の裏に隠されてるロイの私室への扉がゆっくりとスライドした。



「……久しぶりだね、エルリックくん。こんな処まで、何の用かな」

こちらに背を向けたままロイがわざとらしく冷たく言い放つ。


(う、わ〜。怒ってるよ)

いつにない他人行儀な呼び方。ダイレクトに厭味な物言いにエドは冷や汗半分で足を進める。


ま、そりゃ、ここ一週間なんのかんのとプライベートな呼び出しを断りまくったんだから

不機嫌でも仕方あるまい。

ちら、と横を見れば例のチョコはいまだ机の上に大事に鎮座していて

ロイの不機嫌に負けそうだったエドの、静かな怒りを沸々と滾らせてくれる。

(ふ〜ん、まだ食べれないんだ。そんな大事にしてるのかよ?)

他のチョコは全部科学準備室に置いてあり、合間につまみ食いしてるようなのに。

(やっぱ、お仕置き決定!)




となればここは先手必勝。

まずはロイの機嫌を直すためとばかり、エドはしおらしく上目遣いで見上げて。


「う…うん。ごめんな、勝手ばかり言って。だけど…」

と、おずおずと両手で出来たばかりのお菓子を差し出してみせる。

「ずっと、これ…あんたにあげたくて作ってたんだけど…。おれ、不器用で、さ」

「そ…れを?」

エドの言葉に振り返れば目の前に決して形良いとは言えないが、丁寧に作られたチョコブラウニー。

一瞬でロイの相好が崩れる。


(ふふん、ちょろいもんだぜ)



「あ、バレンタイン…からはもう随分過ぎちゃったけど…俺の、気持…」

受け取ってくれる? と小首を傾げて見せれば、男は満面の笑顔で。

「もちろんだとも」

「じゃ…」

にっこりと笑うとエドはそのまま椅子に座るロイの膝の上にちょこんと腰かけた。

「俺が食べさせてあげるね」

「おや、いつになく積極的じゃないか」

「う、ん。待たせちゃったから…利子、っていうか…サービス?」

「そんな利子がつくなら、もっと待っても良かったかな」

膝の上の子供の体をそっと抱き締めて黒い瞳が悪戯に笑う。

「ばぁか」

「う〜ん、なんだか永久保存しておきたい気分だ。嬉しいよ、エド」

「そんな事しないで、はい?」


本当は一刻も早く目の前で食べて欲しいからなのだが、そんなことおくびにも出さず甘えてみせる。

(だって、効果はこの目で確かめたいもんな〜)

そのためにわざわざ日持ちしにくいものにしたのだしと、小悪魔の思惑。



目の前で恋しい男の口に消えていくブラウニーをじっと見つめる。

ぱくん。もぐもぐもぐ、ごっくん。



「どう?」

聞かなくてもわかってるけど聞いてしまうのは待ち遠しいから。

「ああ、なかなか美味しかった。しっとりとして甘すぎず」

「良かった!」


伸び上がって膝の上からキスをねだれば、ご褒美とばかりに落ちてくる優しい唇。

「ん、んん…ぅんっ」

そっとはじまったそれはいつしか互いの吐息を奪うものにと移って。

「……ロ、イ…」

計算外の激しさに瞳を潤ませながらエドはその名を呼ぶ。

いつもならそのままベッドインまっしぐらのコース。

が、ロイの表情はいつもと違い、2割増し怪訝なもので。

(あ、成功…してる!?) 心でニヤリと。

そう、普段通りならこの段階でエドの座る『下』にはロイの熱い…昂りがあるはず。

だけど。


(うん。何の反応もしてない。意外に早く効くもんだなぁ)



「………エド…」

「うん? なぁに?」 にこにこにこ。

「おまえの仕業だな」

「なにが?」


とぼけようとしても浮かぶのは確信犯の笑みだから、説得力ない事このうえない。


そう、この状態で反応しない我が身をロイが不審がるのも…日頃の絶倫ぶりを考えれば当たり前のこと。



「今のチョコか…。なに、入れた」

ロイの問いにこれ以上の隠し立ては逆効果とばかりエドは口を割る。

「う〜ん、物理的浮気防止薬…かな」



回りくどい言い回しをするなとジト目で睨まれエドはつい笑い出してしまう。

だってあんまりに上手く行きすぎ。

「だ〜か〜ら。手っ取り早く言えば……『萎え薬』?」

「…………また…なんで、そんなモノ…」

いつもいつも苛められてる身としては常々考えてた理論。

だけど、あんな事がなきゃ本気で作る気なんてなかったのだけれど。



「別の人からのチョコ大事にしてるような恋人には必要かと思って、さ」

「別、の…?」

ちらりと視線を机に流せば、ああ…と頷いて。


「何をカン違いしてるのかはわかった、が…。あれは私からおまえ宛のチョコだぞ?」

「嘘ばっかり。ホークアイ校長が渡してたって。…裏も取れてるんだからね」

エドがぷいと拗ねて見せれば男はやれやれと苦笑して。

「それじゃ、あの包みを持ってきて開けてごらん」

いわれるままエドは包みを持ってロイの膝にと戻る。

リボンを外し綺麗な包装紙をとり、箱の蓋をあけ……と、そこには。


『大切なエドワードへ』

見慣れた文字でのメッセージカード。

中にはビターとスウィート、2色のチョコボンボンが並んでいる。

「これ…」

「わかったかい? 彼女にはラッピングを頼んでおいたんだ」

いくらなんでも恥ずかしいだろ、そう言って微笑むロイはどこか照れくさそうで。

「…ごめ、ん…」

もらえるなんて思ってもなかった贈り物に、エドは俯いてしまう。自分の幼い嫉妬が恥ずかしくて。


「誤解が解けて嬉しいよ。渡したくともおまえは逃げてばかりだったし」

食べてくれるかい?

そうやさしく聞かれて、どうしてエドが断れただろう。





「ほら、口開けてごらん」

ロイの綺麗な指がチョコを一粒摘むと、エドの口にと運ぶ。

「ぁ…ん、んぅ…ん」

ついと舌の上に置かれ、カリと噛むと中からとろり甘いお酒が溶け出てきた。

「ぅん…?」

「カカオリキュールのボンボンだよ。好きだろう?」

「ぅん」

少しアルコールが強い気がしたけど、それ以上に甘くてエドはうっとりとチョコを堪能する。

大好きな人が自分のために用意してくれた…その事実は、なんて甘いんだろう。

「…ロイ、ありがと…」



だから、エドはうっかり見逃してしまったのだ。ロイの瞳の奥の光を。

薬を仕込むのは相手のほうが何枚も上手だという事を。




口腔を、喉を、甘い蜜が焼いていく。こくりと飲み込めば、もうひとつ。今度はキスと一緒に。


「ん…んん。……ん!?」



ドクン!

いきなり鼓動が強く打つと、体がカッと熱くなってきた。


「ん、んん…ん〜っ!」

口の中全て蜜と一緒に舐めまわされて、エドの肌がゾクゾクと疼く。

一気に覚醒した性感に金の瞳が見開かれる。



「……おや? どうした?」

楽しげなオトナの笑顔。疑問が確信にと変わる。



「アンタも…このチョコに細工してたな?!」

「おまえとは気が合うようだな、本当に」 くすくすと。

「…サイッテー!」

「なに、幸せなバレンタインの夜を過ごしたいと言うささやかな願望だったのだがね」

しらっと開き直られて、エドはもう言葉も出ない。


何が入ってたかなんて、暴走しそうな自分の熱で一目瞭然。しかもまずい事に…。

(逃げ回ってて、一週間以上エッチご無沙汰なんだよ、な)

もいちど抱きかかえられた膝の上で、もじもじと腰が揺れる。


「ああ、良く効いてるようだね。ただ、残念ながらこちらの薬も強力なようだ」

「え…」

次第に自分を持て余しつつあるエドを、ロイは天使の笑みで見つめ…悪魔な台詞を吐く。

「おまえが私に盛った薬のおかげで、どうにも使い物にならないようだよ」

「あんたもこっちのチョコ食べれば?」

「そんな危険な賭けはしかねるな」

それはつまり、今夜はエドを抱く気がないという事。

「だって、だって、おれ…っ」

蒼くなったり赤くなったりエドの顔色がクルククル変わっていく。



だって、だってそれじゃ…おれ、いったいどうしたら。



目の前で動く男の薄い唇。

「なに、幸いここには自分を慰める玩具なら幾つもある」

くるんと椅子ごと向かされた方向には、なじみのある棚


そこには散々エドが啼かされてきたバイブだのなんだのがひっそりと置かれてて。

(ちょ…ちょっと、まて)


いやな予感にエドの顔が曇るが、そんなことロイにはむしろ思う壺。



「どれも使い慣れてるだろう、今夜はじっくり『自分』で慰めるといい」


「絶対、いや!」

予想通りの台詞に反射的に叫んでしまう。が。


「でも、我慢できないだろう?」

「ひゃ、あああん」

言葉と同時に半達ちのエド自身を軽く撫でられ甘い悲鳴が上がった。




「ほら、我慢せずにやってしまいなさい。私はこちらでゆっくりと観察させてもらうから」

「あ、…じぶん、で?」

「ああ、どうにも私はそんな気分にならないようなのでね」

いやはや恐ろしい薬の効き目だよ…と。

(絶対、嘘、だ)

体は反応しなくても心までそうなる筈なんて、ない。そんな薬じゃない。

だから、これは…ようするにロイの意趣返しで。

(……う、ううっ…。おれのばか…)

どんなにわかったところで、もう我慢ができないのは自分の体。

「ほら、素敵に啼いてくれれば少しは早く薬も切れるかもしれないよ?」


そう笑って自分をベッドに運ぶロイに、エドは諦めの溜息を漏らした。





玩具を両手に抱えて運び、ばらばらとベッドに落としながらロイが問いかける。

「身から出た錆、因果応報、自業自得、人を呪わば穴ふたつ…さて、どれがいい?」

「……う、るせぇ…っ!」


子供の怒声はそれでも、もう甘くて。




かくして。

二人のヒミツの時間が、また一夜。



【愚者 の 贈り物   END】
(2007.2.22)


お疲れさまでした。思いの外長くなってしまいました。
しょうもないバカップルのバレンタイン話。
いかがでしたでしょうか(笑

ちなみにタイトルは有名なOヘンリーのもじりです。
お互いのためならぬ、自分のための贈り物で墓穴な二人。
ロイがおいしいのは、まぁ、いつもの事ですけどね。



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