【 鋼ショック自己満足補完・芸能ロイエド 】

 

Keep   Joker
      〜切り札は誰の手に〜



「なんだよ、これ!?」

「なにって、聞いてなかったの? 新番の台本と企画書よ」

ソファの上でひっくり返らんばかりの俺に、熟女というにはまだ若い女性が淡々と答える。



芸能プロ・STL企画のオフィス。

書類を片手に眉をしかめているのはこの事務所所属のタレント、エドワード。

つまり俺である

向かいで我関せずと紅茶を口に運んでいるのが俺の敏腕マネージャーのリザさん。

天がニ物を与えたクールビューティと業界では有名な人らしい。



「んなのわかってるよ、そうじゃなくて、俺が言ってるのは……ここ!」

ぐんと勢いつけて起き上がると、企画書の二枚目を指さしてみせる。

「何で、今回『大佐』が居ないんだよ!?」

「いまさらなに言ってるの。打ち合わせの席で変更があるとは聞いていたでしょ?」

言われ数ヶ月前のミーティングを思い出す。


そういや、確かにマンネリを防いで……とか言ってた気もするけど、

降ってわいたセカンドシーズンの話に浮かれて半分聞き流してた。


「聞いてた、かも……だけど、でも……」

上目遣いで口ごもる俺は、リザさんの冷静な視線を受けてもっと俯いてしまう。

「わかってるんなら、さっさと目を通して台詞いれておいてちょうだい」

すぐに撮影に入るかもよ、と告げられた言葉にそれ以上何も言えず、

俺は手の中の台本をぎゅっと握り締めた。






『Final A(エース)』

略してFAと呼ばれるこのドラマは俺、エドワードの出世作だ。



「Final A」という名の民間SP事務所が舞台で、

警察すら見放したような厄介な警備を引き受けるというのが基本設定。

だから、社名も「FA」……最後の切り札というわけだ。


そこに集まるのは元刑事だったり弁護士だったり科学者だった……と、

とにかく腕と頭はいいが一癖もニ癖もある曲者ばかり。

仕事以外は一切関わらずお互いコードネームで呼び合う間柄のプロ集団である。


俺の役は間違ってそこに入社してしまった新人で、いわゆる主役というやつ。

愛すべきはみ出し者達の中で振り回されながら成長する役どころであった。




とはいえ、俺が有名ですごい役者かといえばそんなことちっともなくて。

実はこの「FA」というドラマ、1クール限りの隙間というか繋ぎ番組のはずだった。

この枠に局が当てていたドラマが主演女優のスキャンダルで放映延期がきまり、

急遽、本来深夜枠の若手起用ドラマを流し込んだのである。

だからこそSTLのような弱小プロでも主役に食い込めたわけだ。


だが、運命の悪戯というのはあるもので。




手垢のついてない(というか無名に近い)俳優陣と

意欲的な(というかやりたい放題の)脚本が受け、

まずはネットでじわじわと火がつき、あれよあれよという間に視聴率はうなぎのぼり。

1クールのはずが一年近く放映され、挙げ句去年の夏には映画まで出来てしまった。



ドラマの中で俺と組んで(組まされて)依頼を請け負うのが『大佐』と呼ばれる青年。

有能にして非情な黒髪の青年と、

直情径行だが本能で物事の本質を見抜く金髪の少年のコンビは

ドラマでも映画でも話の中心で、女性のみならず男性にも人気で……。



なのに。



(見落としじゃ……ないよな)

まっすぐ自宅に戻り、受け取った書類を何度もひっくり返しては眺める。

何度見直しても、大佐の……ロイの名前はどこにもなかった。

ドラマ不調の昨今に局のてこ入れもあって

『FA』のセカンドシーズンの製作が決定したと聞かされたのは数ヶ月前。

まさか、こんな落とし穴が待っているなんて思ってもなかった。





大佐役のロイ・マスタングはこれまで舞台中心でやってきた俳優らしく、

知名度こそないが、外見はもちろん、演技力と存在感において比類なき役者だった。


ほとんど初めてのまともなドラマで演技に戸惑う俺に、

ドラマの中のみならず現場でも、根気強く色々指導してくれたのは彼だった。

演出の意図が汲み取れずNGを連発した時にはコーヒー片手に世間話のようにヒントをくれた。

アクションシーンをこなすための動きとトレーニングを教わったこともあった。

芝居中も楽屋でも、いつもロイの背中を見て走っていた。追いかけてた。


「まるで親鳥と雛だな。知ってるか、そういうのインプリンティングつーんだぞ」

共演者のヒューズさんにそんな風にからかわれながら、また、チームを組むんだと思っていた。

なのに、その名前がどこにも、ない。






「なんで……だよ」


決まったことは仕方ない。そのくらい駆け出しの自分でもわかる。

スポンサーとか監督の意向とか事務所とか……

いろんなものが混ざって動いている世界なんだから。

でも。



ぽっかりと胸に明いた隙間は、なんだか上手く埋まってくれそうになかった。


■ ■ ■


「はい、OKです。それじゃ、今日はこれで終了となります。お疲れ様でした」

スタッフの声を合図に、静まり返っていたスタジオにざわめきが戻る。


今日で初回スペシャルの撮影が終わり、次の撮影は三日後からだ。



「お、エドワード君! 良かったよ。相変わらず頑張ってるね」

「ありがとうございます」

「どう?この後、肉でも食べに行かない?」

「あ、いえ、事務所に帰らなきゃいけないんで。すみません、ありがとうございます」

いつものように笑顔で誘いをやんわりと断ると、素早くスタジオに視線を走らせた。

(あ! 居た)

出口近くの端っこで肩身狭そうにタバコを燻らせている男性を見つけると急いで歩み寄る。




「こんにちは、ハボックさん。補給中ですか?」

「おお、大将」

俺の顔からなにを読み取ったか、すっと横を空けて席を作ると

無言で「座れば?」と合図してくる。

コクンと頷いて横に腰を下ろし、一呼吸置いて口を開いた。考えておいた台詞を。


「あの……ハボックさん、大佐……マスタングさんと同じ事務所ですよね」


問いかけに確認に曖昧に頷くと、視線で先をうながされた。

うーん、やっぱ一筋縄じゃ行かないか。




「で、あの……マスタングさんの連絡先とかわかりませんか?」

一気に言い切ると目を伏せる。驚いている気配が伝わってきて居たたまれない。

「…………なんで?」

「え、えっと……、あの、俺……以前CD借りたの忘れてて、それで……」

俺は昨日考えた言い訳をしどろもどろと口に乗せた。

役者の癖にちっとも上手く嘘がつけないのは致命傷かもしれない。多分バレバレ。

ハボックさんも思うことは同じようで、うんうんと頷いてくれた後。

「うーん、大将の気持ち考えると教えてやりたいんだけど……プライバシーだしな」

ぽんと頭に手を置くと、くしゃくしゃと撫でて困ったように笑う。

「俺のほうから、連絡取りたがってたって伝えとくよ。それでもいいか?」

(やっぱり、そうだよなぁ)

コクンと頷くと自分の携帯番号をメモにして渡す。

「ありがとう、無理言ってすいません」

「なに、こんなことしか出来なくて悪いな」

こっちの我侭なのにそんな風に言ってくれるのが嬉しくて「いえ」と頭を下げる。


多分、連絡はこない気がした。







「なんで……だろうなぁ」

自分の部屋のベッドにひっくり返って俺はぼんやり天井を見つめていた。



あれから数週間。

撮影は順調に進み、新しいチームメイトとも上手くやっている。

新しく組んだのは若手人気NO.1と評判のイケメン俳優で、

最初は気後れしたものの話すととても気さくで優しい人柄なのがわかった。

現場の雰囲気もよく、来期一押しのドラマだろうと世間では話題になっている。

それなのに、なぜ。



(なんで俺、こんなに疲れてんの?)



撮影は集中の連続で、いいものを作ろうとすれば確かに疲れる。

だけど、初めの頃感じてたのはこんな疲れじゃなかった。もっと心地よい、なにか。



理由なんてわかってる、アイツが居ないから。



いつも振り向けば居た存在。不安になった時は、その瞳を見れば落ち着けた。



(なんかもう、なさけねぇなぁ……俺)

以前からリザさんに自立しろといわれていたのはこういう意味だったんだろうか。

「でも……会いたい、よ」

最初は変更理由を直接その口から聞きたいだけだった。

自分を納得させるために。


だけど、あの後何人かに打診してみたけど連絡はなくて。

そうなると意地でも顔を見たいという気持ちばかりが膨れ上がってくる。

その背後にある理由なんて、もうわからない。

「ちっくしょー」



ごろりうつ伏せて枕を抱きしめる。

今夜も浅い眠りの長い夜になりそうだと、小さくため息をつきながら。






そんな日々の中、事態が動いたのは次のオフ前日。



「はい、これ」

バイクを使ったアクションシーンに3度のNGを出し現場の空気は絶不調で。

危険だし…と気分を切り替えるために休憩に入った時、リザさんが渡してきたのは一枚のメモだった。



「…え? ……なに?」

怪訝そうに開けば、走り書きの住所。都心近くの高層マンションの……。

「欲しかったんでしょ?」

まさかと顔を上げれば苦笑というにぴったりの表情で肩をすくめて見せる。

「いい、の?」

「仕方ないでしょ、そんな顔されちゃ」

連日の睡眠不足で、メイクでごまかしているけど少しばかり隈になってるのに気づかれたらしい。

「スタッフから様子が変だって聞いたしね」




信じられなくて呆然と見上げる。

だって、住所なんて……ヒミツじゃん。しかも他の事務所の。




「とりあえず、今日の撮影で怪我したら何も出来ないからね。集中して」

「ありがと!」

小さな紙切れを宝物のようにポケットに押し込むと、残りの撮影をNG無しで撮り終え楽屋にと急ぐ。

急げば今夜のうちにつけるだろう。着替えもそこそこに通用口に回るとタクシーに飛び乗った。



その時俺は、もう会うこと以外、何も考えていなかった。



すみません、バカです(苦笑
鋼キャストショックからうだうだ考えてたら
こんな設定が出来上がってしまいました。
転んでもただではおきない貧乏性(違…
とりあえず勢いだけなので
細かい事はスルーでお願いします。
(2009.3.18)





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