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キスが終わって目の前の黒い瞳が甘い色を宿した筈なのに、

まだ身動き一つとれない不思議にエドは小首を傾げる。


「あ、れ?」


どうして、おれ、このままなの?

もう誤解は解けたはず。間近の黒い瞳は優しい色を映してる。

なのに、なんで?


潤んだ瞳で怪訝そうに見上げれば「ああ」と口元に笑みを浮かべロイは指先をパチンと鳴らした。

途端、ぽぅっとその爪先に浮かぶ青い焔。


(鬼火? ロイってばそんなものまで使えるの?)

今まで自分がどれだけこの男の事を知らなかったのか、

束の間思い知らされエドはどこか体の中が痛むのを感じる。



これって、なに? しらない、こんな感じ。



頼りなげな瞳で見上げれば、いつものように微笑むロイの顔があって。

「苦しかったかい?」

近づく冷たい焔に焼かれ、エドの首を壁につなぎとめていた蜘蛛の糸がちりちりと音をたてて消滅していく。


シュン…断末魔のように一瞬大きく震えると、首のまわりの白い束がいっぺんにその姿を消した。

「……はぁ…。ありがと、ロイ」

ほんの少しだけど締め付けていた力がなくなり、エドはほっと肩から力を抜く。

自分の中に気を取られてる子供は、思わせぶりな視線で見つめる大人に気づけないまま。



次にロイの指先が向かったのはウェスト辺りを捕まえてるひと際太い束。

「う……っ」

首の時も刺激があったけど、今回はその比じゃないほどちりちりと肌を焔が刺して。

エドは思わずビクンと体を竦めてしまう。

「痛むか?」

「だ、だい……じょ、ぶ」



実際その焔は痛いほどに強くはなくて、だから尚のこと性質が悪い。


(や、やだ……ど、しよ…)

「辛いかもしれないが、もう少し頑張ってもらわないとな」

ぷつぷつと細い糸が切れていく音。その度はねそうになる体を必死で抑える。

だってエドが困ってるのは辛いとかじゃなくて、もっと別の事。

(なんで、おれ、こんな……)

そんなの自分がいちばんよくわかってる。自分はインキュバスなのだから。


「ひ…っ、うっ……く」

次第に強くなる身体の奥から湧き上がってくる感覚に、顔をそむけて唇を噛む。

今まで散々犯されていた場所が、一気に思い出したかのように更なる刺激を求めてうねるのがわかった。



当たり前の反応。

なのに今、なぜかそんな自分をロイに知られたくないと思う。



(だって、……だって、こんなこと、で…)

エドの中で、こぽり…と水面に浮かび上がる泡のように、新たな感情が芽生えようとしていた。




「エド?」

漏れた声でロイに悟られたとわかった瞬間、肌が熱く染まった。

「ああ……なるほど、ね」

含み笑いの混ざった声に、いっそういたたまれなくてうつむいてしまう。

「……違う、もん…」

「違うってなにが?」

まだ右足は大きく持ち上げられた格好だから、体の変化はあっという間に見て取れる。

何をいまさらとその表情を覗き込んで「おや?」とロイは小首をかしげる。


今まで見たことの無い瞳の揺れ。

それは淫魔には似つかわしくない戸惑いの色を含んで。



「こんな刺激で感じてるのが、恥ずかしい?」

思わず問いかけてみて、即座にロイはそのナンセンスさに苦笑を浮かべる。

淫魔であるエドにとってことSEXに関係したものに羞恥など存在しないはずだ。

人が食事をする時にいちいち恥ずかしがらないのと同様に。

だが、問いかけられたエドの反応はどちらにとっても予想外のもの。



(恥ずか…し……?)

ロイの言葉を心で反復したエドは、不意にその感情につける名前を知ってしまった。


「……え? うそ……」



恥ずかしい? でも、そうかも。

感じることは当たり前で誇らしいことのはずなのに、なぜかそれが『恥ずかしい』と。


「ぅ…違う……」

言葉とは裏腹に真っ赤に染まる頬がロイに真実を教えてしまう。



恥ずかしい。

どうして。



だって、好きだから。



行為の裏に気持ちが重なれば、それはいつだってトクベツな出来事。





「違う、から。恥ずかしくなんてない!」

そんな意地っ張りは目の前の男を喜ばせるだけなのに。

「そうだな。この程度は淫魔であるおまえにとって、当たり前だろう」

さも気のない感じで落された言葉が合図のように、ウェストへの圧迫感が消える。

あとはふたつ、縫いとめられてるのは手首と持ち上げられた足だけ。

(そのくらいなら……だいじょうぶ…)

刺激に備えてぎゅ…と目を瞑るが、意に反してロイから何のアクションも無い。

それどころか、気配が遠くはなれて。

(ロイ?)


そっと瞼を開くと、映るのは買ってきたお菓子をすぐ傍に運ぶロイの姿。

「な…なに、してんの?」

「うん。そういえばハロウィンだったなと思ってね」

微笑むロイがとっても怖い気がするのは、きっと正しい予感。

その証拠にそのままの格好で服だけが大きな手で乱されていく。

「ちょ……まっ…て、ロイ。降ろして、よ、足…っ」

答えはファスナーの降ろされる音。

エドの焦る声なんて聞こえもしない素振りでぐいと上着が肩まで広げられ、ついでズボンに手がかかった。

「邪魔だな」

「え? あ、…うそっ」

下着ごと下ろされたズボンは、しかし吊られた腿に遮られ腰の辺りで留まり。

それならばとロイは自由な足をぐいと地面から持ち上げて、

不安定に揺れるエドの体を壁に押し付けると、片足だけズボンを抜き取ってしまった。



人形みたいに自在に扱われ、隠したい場所ばかり露わにされていく。



「や…だっ!」

「おや、そんな台詞どこで覚えてきたんだい」

耳元で笑われ、エドは初めてこんな風に嫌がる言葉を発している自分に気づかされる。

焦らすテクかい? と笑われ「ああ、でも」と掌が向かうのはお決まりのコース。

「相変わらず、ここは全然嫌がっていないか」

「ひゃ、あぁん」



ロイが何を言っているかなんて、視線に曝された場所で一目瞭然。

さっきまでの陵辱で勃ちあがった幼い欲望もその後ろの潤んだ蕾も、全てロイの眼前に暴かれているんだから。



「さて、と。少しばかり啼いてみるかい、エド」

「え?……あ、…でも、あ、あああっ! ……や、やあぁ…」


エドが言葉を理解する前に覆いかぶさってきたロイが、

乱した肩口に噛み付くようなキスを落とす。

と同時に、ひくついている最奥へと長い指を挿し込んだ。

二本一緒に。



ずぶ……ん、と体の中から音が響いてエドは自由にならない背中をのけぞらせる。




「前から思っていたんだが……」

ロイはそう前置きしてエドの鼓膜に甘い媚薬めいた声を注ぐ。

「淫魔にSEXは食事と同じ……だったな、エドワード」

「う、うん…って、あ、ああん、そ、そこ…駄目っ」

「それじゃ人間に美食家と呼ばれる、さまざまな味を求める存在がいるのは知っているかい?」

「…っ、ん、え? ……ん、あ! ひ、開かないで! やああぁんっ…」

いつもより低い声でささやく男の、指先は止まることなく縦横に蕩けた蕾をなぶり続けたまま。

「だからね、私も美食家の文化に倣ってみようかと思うんだよ」

「な、…な…あ、ああ、指っ、そこ、そんな、ああっあっあっ、」

「その方が、おまえも楽しんでくれそうだからね」

抵抗できない姿勢のまま片手で窄まりをもう片手で尻尾を愛撫され、ロイの言葉なんて理解できる訳無い。

なのに。


「いい考えだと思わないか? もちろん協力してくれるね」

問いかけられ、何も考えられずコクコクと頷く。答えられないの、わかりきってるくせに。


「同意してもらえて嬉しいよ」



それは、もう逃がさないという宣言。

「ほら、もうここはすっかり準備できてる」

「い……ぁ、あ、は、はぁ…あ、っく…」

両手を広げ壁に貼り付けられたまま、エドはロイの甘い侵略を受ける。

なすすべも無く、もう焼かれるしかない。

解かれた分自由な腰は、ロイの掌に合わせてゆらゆらと踊るよう。


「ん、んん…」

肩からも一度唇に戻ったキスは、呼吸ごと奪いつくすように激しくエドを覆う。

ちゅく…ん、ちゅく…。

耳に届く湿った音は遮る布が無い分クリアで。


なのに、どちらからの音なのかわからないのはすっかり意識を奪われている所為。




ぐったりと手首で支えられるほどに体中の力が抜けた頃、幼い舌はようやく開放された。



「……と、忘れるところだった」

半ば朦朧とするエドを視界の端に捕らえたまま、ロイは買ってきたお菓子に手を伸ばす。

「Trich or Treats…なんて、まだるっこしい。だろう、エド?」

答えを期待してもいない口調で告げると、シガーよりも細長いミントキャンディの封を切る。

パキン。

ロイが口の中で噛み砕くとそのまま口移しでエドに与える。

「好きだったよな? これ」

条件反射で受け取り、馴染んだ味に浮かび上がった意識がコクンと頷く。

「………すき」

「そうか、じゃ、もっと楽しめるところにもあげようか」

「……?」

トロンとした瞳で見上げればもう一度唇をふさがれる。今度のはやさしいうっとりするようなキス。

(あ、きもち……いい)

無理な体勢も、大きく開かれた足も今は気にならない。素肌に感じる温もりがいっそ嬉しいほど。

「ん、ん…」

唇を繋いだままロイの手がそっと頬から下に滑り降り、放置されてたエド自身にそっと触れた。

ぞくんと背中を快感が走りぬけ、くぐもった声がロイに飲み込まれる。

半端に感じたままだったエドの欲望は一気に芯を持ち、先端からに蜜をこぼす。

「もっと気持ちよくなりたい?」

やわやわと上下に揉まれて、もどかしさに腰が揺れる。

優しい声に促されるように、僅かに離れた隙間から「うん」と掠れる声を絞り出す。

それがロイの目論見どおりだったなんて、そんなのわかるはずも無くて。



「舐めて」

唇の間に挿し込まれたのはもう一本のミントキャンディ。

促されるままそっと舌を伸ばし、ゆっくりと舐めていく。

「よくできました」

にっこり笑うとロイはさっきより深くエドの唇を奪って。

「ん、…ん……っ?」

キャンデイが視界から消えたのとほぼ同じタイミングで、エドは自分の熱が強く握られるのを感じた。

続いて感じる、違和感。

「ぅ、ふっ…、う…っん、んーっ! んっ!」



「暴れるんじゃないよ」


そんなこといっても、無理。だって。

きつく握られた手の中で、欲望の先端に『何か』が入り込もうとしてる。それはきっと。

(うそっ…、あ、あんなの…入れられたら……)

エドの予想を裏付けるように、くるくるとソレで撫でられた痕がひんやりと涼しい。



「ん、んっ! ん! っく、む、むり…っ、あ、あ! や、やあぁっ!」

必死で唇をずらし拒絶の言葉を告げようとするが、もう遅くて。

「無理じゃないみたいだな」



つぷん、と先が沈み込んだキャンディは、その細さのまま吸い込まれるようにエドの中に姿を消していく。



「Trick by Treats……なんて、どうだい?」

くすくすと楽しそうに笑うロイは、エドよりも魔界の住人みたい。




何も触れたことがない場所に初めて受け入れる異物は、

ゆっくりとエドに初めての甘い恐怖を教え込んでいった。


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(08.12.17)
す、すみません。あと一回でエッチ終了。
やってるだけなのに、なんでだ。
そんでいまいちヤラシクなってくれない……(泣

 

 

 

 

 

 

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