〜淫魔エド シリーズ・番外編その2〜

バレンタイン なんて 知らない

 

(久しぶりに目の保養をするわね…)



喫茶店の椅子に深く腰を落ちつけ、リザはこっそりと窓の外に視線を飛ばした。

暖かな空気と落ち着いたBGM、

さっきまで外気に凍えていた指先も温かなココアでようやく感覚を取り戻してきた。



いつもならブラックコーヒーの彼女だが、

さすが今日くらいはこういうものを飲んでも悪くないかと思う。

寒さもさることながら、今日は聖バレンタインディ…街中がチョコに活気付く日、なのだから。


(こんなの、飲むの…久しぶり)

両手で包み込んで暖かい甘い香りを嗅ぐ。

徹夜の校了明けの疲れた身体にほんのりと甘みが染み渡る。



そのまま痛む目を閉じてしまいたいのだが、視線はそのまま窓の外、釘付けで。


お祭り騒ぎの街と幸せそうに行きかうカップル達、なんの変哲もない日常。

だけど、少し翳った陽射しの中。

切り取られた一枚の絵のような光景がそこにはあった。



(女…の子?…違うわね、アレは…華奢だけど、男の子だわ)

ファッション誌の編集で培った目が、街灯にもたれて立つその存在を鋭く観察する。

と言ってもそれは仕事ではなく全くの興味。

リザの目をひきつけて止まないのは年の頃、15、6歳の金髪の少年。

蜂蜜色に煌く髪を無造作に三つ編に束ねジーンズに白いコートというありがちな格好…

それなのに、今更ながら純白と金は『天使』の色使いなのだと実感させられるような存在感で。


(不思議な雰囲気の子…よね)

その子の周りだけ音や空気がとまってるような、時間の流れが違うような感覚。



そう感じるのはやはり自分だけではないらしく、

この特別な日に待ち合わせをしてる男女や通行人が、

ちらりとらりと思わせぶりな視線を投げかけるのが見て取れる。


『ひとり、かしら?』

『待ち合わせかなぁ?』

『声、かけてみようか…』

『こんな子待たせるなんて、どんなヤツだよ』

様々な思惑がその視線から聞こえて来るようだ。

そうしておそらくそれは間違っていないはず。

他人にさして関わらないリザですら、

いったいこの子の待ち人はどんな相手なのだろうと興味津々なのだから。



風で揺らされる梢すら少年の為の舞台装置のよう。

寒さからか、ほんのりと赤味を差した頬はその表情にはにかむような色を添え、

ともすれば冷たく見えがちな美貌に幼さと柔らかさを与えている。

微かに震える手に気づかなければ、

そのまま聖堂に飾られる『彫像』だと言っても不 思議ではないほどの、純粋な美。

その手に触れ、その唇に重ねればどんな蜜が味わえるのか。そして…。


(たまんないわね、見てるだけで昇天できそう…)


自分の俗な発想にクスクスと笑い、いったいどこからそんな事思いついたのかと可笑しくなる。

しかし、確かにその少年にはそういうものを誘発する何か、があった。


聖にして、性。




「コーヒーのお代わりは、いかがですか?」

不意に飛び込んできた高めの声に思いを破られリザの意識は店内に戻る。

かけられた声はもちろん自分にでは、ない。

いそいそと聞こえてくるその科白は、すでに数えるのも嫌になるほどの回数で。

(ああ…、また。 まぁ、気持はわかるけど、ね)


「いや、結構だ」

低い声が空気を揺らす。けして大きくはないのに良く通る声。

それは指示を出しなれたものの口調だと本能的に察する。

さっきから店の女性やウェイトレスが落ち着かない理由。その、存在。


ふ…と軽く息を吐くとリザは視線を少しだけ横に流す。

黒髪にブルーグレーのセーター。

横にぽんとかけてあるジャケットも瞳と同じ漆黒で、シンプルであるがゆえに素材の上質さを引き立てる。

それはこの男にしても同じことで。着飾らないが故の帝王のような存在感。


(確かに…いい男よね)

垣間見える横顔だけでも精悍な顎のラインや口元がはっきりと見て取れる。

こちらも誰かを待つのか視線は窓の外に流されたままだ。

その瞳を自分に向けさせたいと躍起になる女性が少なからず居るだろう事は予想に難くない。



(あの子が光の天使なら、こちらはさしずめ闇の帝王ね…)

こんないい男を二人も見れるというのは幸運なのか不運なのか。

しかもどちらも人待ち顔で。



「え?」

男の眉が一瞬ひそめられた気がして視線を追えば窓の外、

ひそひそと脇で話してた二人連れの男性が思い切って少年に声をかけるのが見えた。

(……気に…してる、の?)

この男ですら、あの少年が気にかかるのか?

それは意外でもあり、当たり前な気もする事実で。


そういう自分も気になり成り行きを追えば、

なにやら誘ってる相手に柔らかに微笑むと誘いを断ったらしい。

聞こえないその声とおそらくは儚げな笑顔に毒気を抜かれ、

男たちはごねる事もなく名残惜しげに手を振って去っていく。

今の連中など一歩間違えばとんでもない事をしかねない雰囲気なのに、何故か柔らかな表情になって。

(本当に…天使みたいね…)

コクンと飲み込んだココアは既に冷えていたけど、不思議と気にもならなかった。




そうして数分がまた過ぎた頃。

さっきからどんよりと重い色だった空から雪が舞い落ち始めた。

自分がここに入った時には既に人待ち顔だったあの子。

確実に40分は外に立ってるはずで、そんな冷え切った身体に雪が辛くない筈がない。

(…大丈夫、なの?)

気にしてみれば先程より頬の赤味も強く、遠目だが身体も震えてきてる気がする。

見つめる前で一瞬がくりと上体が揺れた。

「っ!」

思わず立ち上がったその瞬間。

がたん、と大きな影が視界を横切ってレジに向かった。


(え?…あの、人……!)


それは先程から店内をざわめかせてた青年に他ならず、

急ぎ足で店を出ると迷うことなく少年の元に歩み寄る。

(知り…あい?)

それにしてはおかしすぎる、お互いがこんな近くで気づかない事などあるだろうか。



男の近づく気配に気づき『天使』が瞳を上げる。

その印象に相応しい金の透きとおった瞳。

それに男の黒髪が映りこんだ時、

金の髪に縁取られた幼い顔がまるで花開くように華やかに綻んでいった。


『……ロイっ』


初めて大きく発される少年の声。それは切ないような甘い響きを潜ませていて。

思わぬ展開にガラス越しの街も店もしん…と静まり返る。

それなのに当の本人達は一切意識することなく並んで佇むと、

一言ふた言交し…そのままゆっくりと立ち去って行った。


それはまるで古い映画のように…。



「……な、んなの…?」

店の中あっけに取られて見ていたリザは、我に返るとふと息を吐いた。

(あれは…偶然とか、じゃないわね。しっかり名前呼んでたし…)


心の中で並べてみたいと思った二人。

それを見れたのは本当に幸運だったのだと思うのだが。



どう考えてもあの男は少年が待つ姿を眺めていた。

周囲の反応も含めて楽しんでいたことも、間違いない。

…それも、雪が降るまでずっと。



(……悪趣味な、男)


自分ならごめんだと思うのだが、あの、見つけたときの少年の表情を思い出すと

それでもいいのか、と思ってしまう。



だって、それは…チョコもとろけそうなほどの甘い甘い微笑みだったのだから。



などと。

ニンゲンの誰かが考えてたなんて、エドにはどうでもいい事で。

だって、もっともっと、『大切』な事があるから。

*******




「ロイ…ろいっ、はやくぅ…」

ぐいぐいと腕を引っ張って家に戻ろうとするエドをロイは楽しそうに見つめる。

「おや、どうした?待望の『デート』じゃないのか?」

「……いじわる」

半分涙目で赤い顔して息きらして。

何で自分がこんなんなってるかも…全部ロイは知ってるくせに。


「もっ…。帰るの、帰らないと…」

「……ここで『したく』なっちゃう…?」


言われて「う〜」と唸るエドを、すっぽりと黒いコートに覆うと楽しげに笑ってみせる。

「それじゃ、しかたないな。可愛い悪魔にこの身を差し出す為に帰るとするか」

小さく囁かれてコートの影、エドの頬がいっそう紅く染まった。






ばたん!

激しい音とともにドアが閉められ、途端…

その小さな身体をぶつけるようにエドがロイにしがみついてきた。

「ロイ…ろいっ…ろいぃ…っ」

「なんだ? もう我慢できないのか?」

からかうような声にも反応できず、厚い胸にしがみついていやいやと首を振る。

投げるようにコートを脱ぎ捨てると、ばさりと今まで隠していた大きな翼が広がった。



そう、あの広場で皆が感じた印象はあながち外れてはなかった。

少年は『人』ではないのだから。けれど大方の予想を裏切ってその翼は黒かったのだけれど。



淫魔、インキュバス…人と交わることでエネルギーを得る魔界の生き物。

それがエドの本質だった。




そのままふわりと浮くとぶつけるようにキスをする。余裕なんて欠片もない…キス。

「して。…ねえ、ここで…はやくぅ!」

首にしがみついて震える小さな身体を抱き締めると、

ロイはそのままするりとエドのジーンズを足元に落とした。

「ん、ぁ…」

硬い生地が湿った先端を滑る刺激に、エドの唇から嬌声が零れる。

下着をつけることを許されてなかったその肌は冬の寒さの中でも火照っていて、

体中がもうすべてスイッチみたい。



「全く、こらえ性がないな」

「誰、のっ…せいっ!? 大体ロイがこんなものつけるから…」

玄関の直ぐ中で、扉一枚隔てれば街のざわめきのその場所で…

こんな風に乱れるにはもちろん理由があって。



薄紅にそまった腰からゆらゆらとのびる尻尾。

魔族の象徴にしてインキュバスの弱点、

そう性感の塊りみたいなそれがずっと微かに震えてる…自分の意志じゃなく。


「なんで?よく似合ってて可愛いぞ」

「違うだろっ!!」

なみだ目で訴えるその視線の先、

くるくると巻きつけられた尻尾から覗き見えるのはニンゲンの考え出した悪趣味な玩具。

最初冷たかったプラスティックのそれも今まではすっかり体温と同化して、

小刻みに振動するさまはまるで生きてるみたいに見える。


たった、それだけ。

でも、それはエドには辛すぎる刺激で。



「早く取れよ!…取って…たらぁっ!」

半裸で縋る少年に、いまだコートを纏ったままの男は優しくしかしきっぱりと微笑みかける。

「まだ、駄目だよエド」

「なんでっ!?」

「だってお仕置きだから」

言われて理不尽な言い草に唇を噛む。そんなの、もう充分じゃないか。

体の芯から熾き火のように湧き上がってくる衝動を逃す術もなく待っていた、あの間ずっと。


「お仕置きって…だって俺…チョコ食べただけじゃんっ!」

「ああ、そうだな。よりにもよってバレンタインチョコ貰って、その子と俺の目の前で」

にっこり、と。

やきもちを焼かれてるのはわかるし、けしてそれは嫌じゃない。むしろ、うれしい。でも。



「だって、知らなかったんだから、仕方ないだろ!?」

(…魔界にはそんなシステムなんてなかったんだから。

 だいたいチョコ食べたら求愛にOKだなんて、誰が思うんだよ?)



ロイに教えられた事が実は極端だとか、それはエドを虐めてみたかったロイの半分以上こじつけだとか

…そんな事ちっとも気づかないエドはそれでも強くは言えなくて。




「うっ…ぅ〜っ…ぅ…」

唇噛みしめて必死で、揺れる腰を押さえつける大きな手をどかそうとする。

自分で触ることも許さない強い、腕。



どうだっていいから、わかったから、とにかくいちど…イかせて。このままじゃ…。


「きゃ…あ、あ…あっ!」

玩具にからまった尻尾をいきなり強く引かれて、激しい振動が根元まで伝わる。

途端、触れられてもない蜜口からとろりと白い液体が零れ落ちた。

激しくはないが止まらない…緩慢な絶頂。


「あ、ああ、…あう…ん、ん…ぁ…や、ぁ…あっ」


ひっくひっくとしゃくり上げるリズムでタイルにぽたぽたと落ちる精液が白い模様を描いていく。

「きもちよかったかい?」

こんなに出して、と笑われても、まだ止まらない絶頂感はエドを切なくさせる。

「…よく、ない…。こんなの、ロイでなきゃ…」

「欲しい?」

コクンと頷けば先から染み出る雫を拭ってそのまま蕾に。

淫魔の精液は媚薬。だから…いつもロイはそうやってエドを狂わせたがる。



「…また…そゆこと…するぅ…」

「嫌いじゃないだろ?」

確かに気持いいし、感じるし…。

でもなんだか『自分のもの』でそうなることの抵抗はまだ拭いきれない。


「んっ!あ、あんっ…や…」

くちゅん、といきなり2本突き込まれても、もうソコは柔らかく受け入れてしまう。

(痛いのが気持いいなんて…知らなかったし…)

知りたくも無かった…と言えないのが辛いところ。だって気持いいことは、好きだから。

「ひゃ、…あああ、あんっ…や、もうっ…そこっ…」


3本入れられて更に流し込まれる自らの蜜に、ウズウズと熱く息づく体はもっともっとと誘い込むよう。


「あ、つい…よぉ…。ろぃ…ぃ…」

もはや力の入らない手でしがみつけば、くすりと笑った息とともに尻尾を掴まれ…。



逃れることの出来ない強さでロイの手が、絡んだ中のバイブごとエドの蕾に押し込んできた。

「やーっ!ん、んう…ん、うぅ…ぐぅ…ん、んっ!」

ビクビクと暴れる小さな身体を玄関の扉とロイの身体で挟み込まれ、ゆっくりと異物を挿入される。

上げたい悲鳴はそのままキスで封じ込められて、吐息すらつけない。



「ん、んっう、うう…ーっ!!」


ひくひくと痙攣して自然に浮く右足を胸につくほど持ち上げられ、更に暴かれた最奥。

規則的に振動する自分の一部を体内で感じ、エドの背が過ぎる快感にそりかえった。

「…ひ…」

唇を外されても息を突くのが精一杯で嬌声すら出ない。

意志とは関係なくビクビクと跳ねる腰に、見開いた瞳から涙が落ちた。

自分で犯されるのはこれで、2度目。

…でもあの時はこんな玩具ついてなかった。


「た…けて…。ロイぃ…」




感度が良過ぎる身体。

もう、擦り切れてしまいそうな精神。



「俺、が欲しい?」

優しく聞かれて必死で頷く。

教え込まれる快感にあまりに素直な性はもう従うしかなくて。


「いい子だね」

「…っ…?」

気づいた時は遅く。


ロイは自らの灼熱をエドにあてがうと一気に貫いた。

……いまだ異物をくわえ込んだままの、蕾を。



「あああああ、あ……」

悲鳴の形に開いた唇から、聞き取れないほど掠れた声が零れ出る。




ひきつけるほど引っ張られ自分の体内に衝き込まれた尾が…

裂けそうなほど全てを飲み込んだ内壁が…

挟まれ硬い腹筋に押し付けられたエド自身が…。




すべてが快楽の階段を駆け上り、今まで知らなかった高みにエドを放り上げる。





「動くぞ。声をたてるなよ」

外に聞こえるからな、と無理を承知の注文をつけると、

ロイは返事も待たず激しくエドを揺さぶり始めた。

「ひ!…やっ…だ、め…ぇ」

制止など煽る声にしかならず。

エドがようやく許されたのは数度目の絶頂とともに意識を飛ばしてからだった。




ぐったりとした幼い身体から、ずるりと尻尾を引き抜く。

中で解けたのかコトンと軽い音を立てて床に小さなピンクの球体が落ちた。

「…まるで、おまえが産んだようだな」

聞こえてない耳元で囁くと、ロイは悪戯を思いついた子供の瞳になってこう続ける。

「ああ…今度は『産ませて』やっても、いいな」 くすくすと。


「思いつくかぎり全ての快楽をおまえに教えてやるよ、エド」

おまえが俺から離れて生きてなどいけないように……。




そう嘯く男の顔はまるで、天使のように穏やかだったけれど。
   

                                           

THE END




淫魔エドコピー本第2弾でした。

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