★「ハロウィンナイトを 過ぎても」その2★

Holly Night ご一緒に ♪




「クリスマス…って、あの、クリスマス?」

エドが不思議そうに聞くのも無理の無い話で。


「そう、ツリーを飾って七面鳥食べて」

「でも、ソレって、神さまの子供が生まれたとかいう…」

「ああ! ケーキも食べるしプレゼントも貰うな」

魅惑的なロイの言葉に半分うずうずしながらも、エドは更に言い募る。

「でも、ロイ……俺、魔物なんだけど…」

ほんとに、ソレ、祝っちゃっていいのかなぁ…。



その言葉の通り、背中からは黒い小振りな羽根が、ズボンからはキュートな尻尾が覗いている。

辛うじて隠してる耳は、本当は羽根と同じ真っ黒で。


そう、彼エドワードは淫魔…インキュバスと呼ばれる低級魔であった。



「なあに、最近では、ただのお祭り騒ぎみたいなもんだから、そんな気にやむことでもないさ」

ましてやお前は母が大天使なんだから、半分は天界の血が入ってるんだろ?

そう言ってエドワードを説得してるのは一見ただの人間。

ロイ・マスタングというこの男、実は魔物使いの末裔で、

しかもエドはまだ知らないが魔貴族の血すら引いているという食わせものである。



この二人、ひょんな事から出会い…結局一目ぼれ同士ベッドイン。

果ては人間界で熱々同棲中という、なんとも非常識なカップルで…。

ま、その非常識のあらかたはロイに責任があるのであって。

だから…そのロイにかかれば、魔族なのに聖誕祭を祝うことなど、あっという間に言いくるめられてしまう。


「…そっかなぁ?」

「そうだとも、だいたいキリスト教では悪魔さえ神の創造物なんだから、

 この日くらい祝ったって罰はあたらないさ」

とくとくと説得し、エドの心が揺れ動いた最後にトドメの一言を落とす。

ゆっくりと肩を抱き、頬にキスを落としながら。


「まぁ、ほんとは私がただ…おまえと祝いたいだけ、なんだけどね」

「……ろい」


身体も心も恋に不慣れなインキュバスはあっという間に篭絡されてしまって、うっとりと頷くばかり。


そうして。


「それじゃ、俺、ケーキ買ってくる」

「ああ、あそこの修道院のは美味しいからね。 チキンとかは帰って一緒に準備しよう」

うん!と嬉しそうに返事してエドはパタパタと走り出てく。


「ったく、魔族のくせに…修道院は何で平気なんだか」

紅いフードコートに身を包み、すっかりお気に入りになった買い物に出て行く後姿を見つめ、ロイはひとりごちる。




人間界に降りたエドが一番最初に気にいったのが、甘いお菓子だった。

魔界にも天界にも無い様々なソレを探しては買うのが、ほぼ毎日の日課で。

辟易したロイが連れ出した散歩の途中ですら、エドの嗅覚は甘い匂いをかぎ当ててしまうのだった。


先日もそうやって辿り着いた甘い香りの元。

厭味の無い真直ぐなソレは近くの幼稚園のバザー会場からのもので。

そこが修道院の付属だと知った時にはエドの味覚はすっかり虜になっていた。

が、虜になったのはエドばかりではない。

エドの本来持つ優しさと綺麗さに子供どころかシスターまでメロメロになり大歓迎を受け、

いつしかそこはエドのお気に入りの場所と化してしまったのである。



「神の使いまで落とすとは、さすが淫魔というべきなのか?」

最初こそ、そうからかったロイだが今ではすっかりエドに感化され、時々同行してはお相伴に預かっている。


そんな場所だからこそ、安心して独りで出せるのであった。

そう…

こんな時にも。






「……で、いつまでそうやって覗いてる気だ?」

先程までの甘さが嘘のような冷たい声。

「何だ、気づいてたんですか?」

かけられた方も、悪びれるでなくゆっくりとチェストの中から姿を現した。

「…鈍いわけじゃないんですね、僕の気配に気づくなんて」



 ロイの力量を測るように、不躾な視線を飛ばしながらそう笑うのは、自分に自信のある証拠。



「おまえ、アルフォンスだな? エドの弟とかいう…」

「エド? 馴れ馴れしく名前呼ばないでください」

それに、アナタに呼び捨てにされる筋合いもありませんからね。

そう可愛らしい声音で言い放つのはまだ少年といっていい年の魔物。


エドそっくりの金髪とやや大きめの羽根。

違うのははしばみ色の瞳と、腹に一物隠した笑顔で。

それだって、うっかり見落としてしまいそうなほど、天使の顔した…淫魔…だった。



「…冷たいことを言うじゃないか、お兄さんと慕ってくれてもいい仲なのに」

「誰が? …わるいけど、僕、たかが人間ふぜいに兄さんを渡す気はありませんよ」

「君が許さなくても大事な『兄さん』が離れないんじゃ仕方ないだろ?」

お互いににこにこと笑いながら、交す会話はブリザードである。

「…ったく、兄さんも趣味が悪い。だから、僕があれだけ注意してたのに…」

「ああ、そういう意味では感謝しなくてはな。あれだけの色気でよくこれまで無事だったもんだとおもったが…」

君のおかげだな、と、にやりと笑えば、更に吹き荒れる凍るような空気。


「……なに、エサの分際で勘違いしてるわけ?」

いきなり下がるアルの声。かすかにロイの表情が動く。

その様を見て取り、アルは追い討ちをかけた。


「確かに、エサとしては上質だと思うけどね、所詮ニンゲンふぜい…」

「全く、エサ、エサ…と失礼なヤツだな」

言いながらロイの手がテーブルの上に置いてある本にかかる。

一見普通の本に見えるソレは、実はロイの先祖が残した『魔封じ』の書物で。

(エドが帰ってくる前に、こいつ封じ込んでやろうか…)


心の中で唱えていた呪文がとまったのはアルの一言の所為。



「だってそうだろ?兄さんの淫魔の力に誑かされてるとも知らないで、恋人きどりなんだから…」


ぴくり。

悔し紛れの一言は実は密かなロイの不安を言い当てていた。


いくら魔物使いだろうがなんだろうが、恋した男の不安はひとつ。


相手の思い、自分の思い。

どれがほんとで、どこまでほんと?


らしくなく可愛らしい疑問をその身に抱いていても、一体誰が責められよう。

だって、ロイにはこれが初恋だったのだから。

三〇男の純情。



ただ…その解決の方法は…きわめて、彼らしいものだったが。




「…それもそうだな。…じゃ、試してみるか」

言うなりアルフォンスの身体を近場のソファに押し倒す。

「なっ!…なにするんですかっ!」

「いや、だから…他の淫魔でもいいかどうかの確認を、な」

エドの話じゃ、君はあの子より淫魔としてはかなりレべルが上、なんだろ?

そう告げればおのずと意図は読めて。

「僕で、試したいってことですか?」

「いや、かね?」

問われて束の間逡巡する。


(…いや…じゃない、かも)

確かにこいつのエネルギーはもの凄く上質で。これまでに食べた誰よりも。

ついでに言えばエドワードがどんな思いしてるのか興味もある。



(上手く僕に骨抜きになれば、餌もゲット出来て…兄さんも連れて帰れるよね)

もとより淫魔に貞操観念などなく。

「う…ん、…ま、しかたないか」

もったいぶって見せるのも立派なテクのひとつ。

「いいですよ。その代わり…僕でイったら、兄さんは返して貰いますからね」

言葉とともに体勢が入れ替わり…。

ロイに覆いかぶさるようにソファに乗り上げると、アルの舌が男の肌をゆっくりと滑り始めた。







「ったく、だめじゃん、俺」

ぶつぶつとひとりごと呟いてエドが玄関を開けたのは、それから20分もたたぬ頃。

ケーキを買いに行ったはいいが、お茶とクッキーでもてなされ。

あげく、生クリームがチョコか決めかねてロイの意見を…と帰ってきたのだが。

「……え?」

扉あけた途端に感じる魔力に、足が止まる。

次いで敏感な耳に聞こえてくる、情事の気配。

(え?…ここ…ロイ、の家…だよね?)

背中に嫌な予感貼り付けつつ、こっそりとリビングへの扉あければ…。


「……ん、…ん、ん…」

隙間からサイドボードのガラスに映った二人の姿が見える。

ソファに座って寛ぐ風情のロイ…の足の間で、金の髪の少年がその昂りに奉仕を続けている姿。

ぴちゃぴちゃと舐める音までリアルに鼓膜を揺らす。



(え?…え?…あ、あれ…)

よく見れば少年の背からは見慣れた黒い翼。

(…アル?…アルフォンス?)

理解した瞬間、エドは踵を返し扉から離れた。

走り出さなかったのが不思議なくらい。

心臓はどくどくと激しく打つのに、身体の動きは妙にゆっくりと落ち着いてて。





近くの公園に向かうとベンチに腰を降ろし、ぼんやりとした頭が動き始めるのを待った。


「アル…だったよね?」

なんで、アルとロイが?

アル、いったいいつからこっちに来てたの?

なんで、アルとロイが…あんなことしてたの?



確かにロイは俺に一緒に住もうと…エナジーは必要なだけくれると約束してくれた。

そして、それは破られてはいない。


(……っていうか、昨夜だって…あんなに…だから)

毎日毎晩、消耗もさせられてるけど…。

その分多すぎるくらいの精エナジーも貰ってて、ロイが大丈夫なのか心配になるくらい。

(そりゃ、他に誰とどうしようが…かまわないん、だけど…)



本来、SEXで生存エナジーを摂取する淫魔には『貞操観念』などない。

むしろ、そんなものあったら邪魔なわけで…。


なのに。




「あれ?」

頬に風が冷たい。

触れて初めてそこが何かで濡れている事に、驚く。

「…な、に?これ…?」



魔族は泣かない。

SEXの最中に感極まって生理的な涙が流れる事はあるから、涙の存在は知ってる。

知ってるけど…。

「なんで、こんなもの、出てるの?」

瞬きすれば、それはぽたぽたと膝に落ち、染みを作る。


「な…ん、で…」

何で、ロイはあんなことしてたんだろう。

俺だけじゃ足りなかったのかな?俺のこと、もう飽きちゃったのかな?

(…だってアルにはいつだって敵わなかったし)

もう、おれのこと…ロイ、いらなくなっちゃうのかな…。

「ひ…っ…ぅ、くっ…」

それが『哀しい』という感情だとも知らず……。

エドは、生まれて初めての涙を零し続けた。



TOP NEXT

 

余りの更新停滞にお詫び方々、そろそろ時効(?)かと、
ほぼ2年前のコピー誌をWEB公開いたしますねVv

何でか根強い人気の淫魔エドのシリーズでございます。
スクロール地獄を避けるべく前後編でUPです。

改めて読むと、新鮮だなぁ(苦笑
(初版 05.11.23)

 

 

 

 

 

 

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