一方。

そんな事とも知らぬ二人は。






「…ん、あっ!…ああん、…やめっ!」

アルの背中から後ろへと這い回っていたロイの指が、最奥に突きたてられるにいたって、

ついにアルの口から嬌声が漏れた。



「…んっ!もう!やめてくださいよ…集中できないでしょ?」

「手持ち無沙汰なんだ、このくらいやらせろ」

「冗談でしょ?僕はそこまで許す気はありませんからね」

「おや、エドと同じ思いをしたかったんじゃないのか?」

「アレは言葉のあや、です」


これ以上のお喋りは雰囲気を壊すとばかり、アルは再びロイ自身に激しい愛撫を開始した。

男相手になんてやったこと無いけど、どうすればいいかは本能が知っている。



太い茎に舌を這わせながら、時に吸い上げ時に甘噛みし…。

そのまま全部口に含んで舌と口腔全てで快楽を与えていく。

口と手の中で欲望は確かに大きく脈打ち、先走りの蜜もとろけるほど甘くて…

感覚ではもう、数度言っていてもおかしくない状態なのに…。



(……なんで、イかないんだよ!?)

「『なんで?』…どうもお前じゃイけないみたいだな」

思いが口に出ていたのか軽く笑われ。

(く、ちくしょ…っ!)

悔し紛れに歯でも立ててやろうとしたその時。

「ひゃ、ああ、んっ!」

アルの口から更に高い悲鳴が上がった。



考えてる不意をつかれ、いきなり3本つきたてられて下肢が痙攣する。

「ああ、ああっ…!や、だっ!」

「…やじゃないだろう? ドロドロに溶けて物欲しそうだぞ? インキュバス」

「ちっ、違…ああ、…あぅんっ…」

「このまま、上に乗って暴れてくれても一向に構わないが?」

「冗談っ!」



がちゃり、と玄関のドアが開く音がしたのは、その直後。


「ただいまーっ。ロイ、ケーキ、白いクリームにしたけど大丈夫だよねぇ」

間延びした、不自然なほどに明るいエドの声。

一瞬ロイの意識がそれたその間に、アルがロイの手から逃れ…そのままロイにしがみついてソファへと倒れこんだ。




「……何のまねだ?」

「別に…」


にこにこと明らかに意図をもった笑顔で答えられても信憑性は無い。

「でも、お互いまだ途中でしょ? 見られても僕は平気ですよ、淫魔ですから。

 ただ…兄さんは…どうかなぁ?結構変わった所あるし」

まぁ、でも、貴方の実態もわかっていいかと思いますけどね。

にっこり。



「ふ、ん。確信犯というわけだ」

「ひどいなぁ、乗った時点で同罪でしょ?」

「あいにくと…」

アルを横にズリ落とし、サイドテーブルの上の本に手を置く。

「なに、を……」



アルが起き上がろうとした刹那、ロイの唇が数言、無音の呪を形どり……。




「その程度で手離せる相手ではなくてね」




淡いオレンジの光とともに、本のページからゆるゆると何者かが起き上がってきた。


「エドはまだ知らないが…実は私は魔遣いなんだよ」

「なっ…!?」




魔遣い…人の子でありながら魔物を使役できる霊力を持った存在。




強張るアルの表情に、ロイが楽しそうに笑う。

「大丈夫、封印はしないさ。大事なエドワードの弟君だからな」

ただ…と、告げる声はもう笑ってなくて。

「ほんの少し、お仕置きはさせてもらうよ」



呆然と見つめる視線の中。

光の中から、細身ながらしっかりとした男の姿が現れる。




「いきなり呼び出さないでくださいよ〜」

だるそうに肩をほぐしながら男がぼやく。緊張感ゼロ。

「ああ、すまなかったな、ハボック…でもいい知らせだぞ」

「なんすか?」

ハボックと呼ばれた男、一見ただの人間にしか見えない。

けれど、召喚されたということはそれなりの魔だということ。


(…戦いとなると…不利だな…さてどうやって逃げるか…)

アルが活路を見出そうと周囲を見渡していた時、ロイがとんでもない命令をハボックに下した。



「ここにいる淫魔、お前にやろう…食べていいぞ」

「え?」

「ええ?!」

声が重なる。

一方は悦びもう一方は焦り…しかも、更にとんでもないコトに…。


「ああ。アルフォンス、安心したまえ。そういう意味ではないよ」

ハボックは狼男なんだがね、どのへんが一番ニンゲンっぽいかというと……。

「発情期が一年中ある、ということなんだ」


と、いうことは…まさか。

恐る恐る見上げると、にっこりと笑うハボックと目が合って。

「うわぁ。ほんとカワイコちゃんじゃないすか。…いいんすか?」

「構わん、お前へのクリスマスプレゼントだ」

「冗談じゃな……っ!うわあああーっ!」




アルの悲鳴は、ロイの背後の扉に飲み込まれていった。







「ん?」

おそるおそるキッチンに向かったエドワードの耳に、

かすかにアルの自分を呼ぶ声が聞こえた…気がした。



結局あれからしばらく泣いて、ようやく気を取り直し、も一度修道院に向かった。

余り遅くなっても心配かけるし、ましてやケーキも持たずに帰ったらロイだってびっくりする。

(だって、こんな気分になる俺が、おかしいんだし…)



契約を結んだからって…自分だけのものになるわけじゃない。

魔族にだって恋愛はあるけど、それは子孫を残す為の感情というか契約で…。

だから何回も色んな相手と恋愛しては子供残すんだし…。

(…やっぱり、おれ、どっか出来損ないなんだろうなぁ…)


ロイだけが欲しい。ロイしかいらない。

(でも、ロイはニンゲンで、絶対俺より先に居なくなっちゃうのに…。そしたらどうすんだ、俺?)


まだエドワードは知らないから。

恋したのだって初めてで、これが独占欲だなんて。

そして。

恋した相手が、実は魔貴族の血も引いてて…

ただの人間なんかじゃないってことも。



だから、ただ、不安で。




「エド、ここに居たのか?」

座り込んでたら後ろからロイの声。


「う…うん。ケーキさ、どっちにしようか悩んだけど…白い方が綺麗かなって思ってそっちに…」

「肩が…冷たい」

後ろから抱き締められてドキッとする。

え?と振り返ればそのまま顎を掬い上げられて。

「……目も、赤い。どこで、何、してたんだい?」


答えられるわけ、無い。

「エド?」

意地悪な質問にまた俯いてしまう。

「じゃ…どうしてリビングじゃなく、こっちに来たのかな?」


問い詰められて、とめてたはずの涙が盛り上がってきた。

「エード?」

「う、うぅ〜っ…」

おっきく開いた瞳から大粒の涙がポロポロと零れる。

「ロイ…ひどっ……いじわる…だ」

「なんで? 私のどこが意地悪なのかな?」

穏やかに聞き返され、エドは益々情けなく…泣きたくなる。


ひとしきりの沈黙。

耐え切れなくなったのはやっぱりエドで。

「だって…アル…と、あっちで…」

「…見てたのか」

もう隠せないと、コクンと頷く。

「アルが…ロイの…してて…ロイ…っ」

俺、凄くヤだった、としがみついて泣きじゃくる。


様子のおかしい帰宅からそんな事だとは思っていたが、まさかそこまで悩んでいるとは思わなかった。

淫魔ゆえの獲物への独占欲というより…これでは…恋するものの嫉妬じゃないか。

「…いやだった?」

こくんと首を振る。

心臓が掴まれてるみたいなあの感覚。思い出したくもない、と。


「すまない…ただ、どうしても…確かめたかった事があって」

「な、に?それ?」

「私はエドが好きだ、その気持に偽りは無い…。

だが、アルフォンスに問われて不安になった」

これが淫魔の力に囚われてるだけと言うことは無いのか?

「それで…アルフォンスに協力してもらったんだ」

おまえ以外でも、いいのかどうか…。


「……で?」

思いがけないロイの告白にエドは泣くことも忘れ聞き入っていた。

ロイが? あんなにいつも自信たっぷりに見えるのに…?

「ダメだった。あれだけ頑張ってくれたんだが…イけなかった。

 どうやら、私はもうお前でなきゃ感じれならしい」

責任、取ってもらわなくては、な。

そう耳元で囁かれ真っ赤になる。


「……ばか…」

「ああ…こんな馬鹿だとは自分でも思わなかったよ」

だけど、エドがやきもち妬いてくれるとも思わなかったな。

「やきもち?」

「うん、だって、ここが痛かったろ?」

心臓の上指されコクンと頷く。


いっぱい泣かせて…かわいそうだったけど…嬉しいよ。



勝手な勝手な男の言い分。



「ロイ…叩いていい?」

そしたら、許してあげる

だってとっても苦しかったから。

もう二度とそんなことしたら許さないけど。だってロイは俺のだから。誰にもあげれないから。

今度だけ、一回だけ…許してあげる。


頷いて目を閉じたロイの頬に平手を一回。

「これは、アルのぶん」

ロイの頬に俺のつけた微かな痣。反対側に今度は回って…

「え?」

頬に小さなキスを落とす。

「これは…俺のぶん」

目を開けたロイに笑いかけたら、大好きな笑顔を、くれた。





メリー クリスマス! 神様も、きっと、見てる。

 

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はい、本編はここで一応ENDでした。
が、これではやはりぬるかろう!!と思い至り
本に急遽つけた「オマケ」がもう一回続きます。
エッチのみです、当然ながら。
(初版 05.11.23)

 

 

 

 

 

 

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