今宵一夜は、闇の祭り
歌え踊れや ハロウィンナイト
朝の一条射すその前に
化け物どもが大騒ぎ
夜明け、扉が閉まる時まで
夢や現やカルナバル
★ハロウィンナイトを 過ぎても★
「ひっ…いや…あ、あ…ん」
真夜中の静けさをまだ幼い少年の声が揺らす。「も、…もう…だめっ」
「だらしないな。それでも…」
それでも?
続く青年の台詞は、薄暗がりの中ベッドサイドの明かりに映し出された少年の姿によって裏打ちされる。
「それでも『インキュバス』とやらなのか?」「あああん。っあ…はぁ、ああっ」
下から激しく突き上げる黒髪の青年の、腰にまたがるようにして揺らされている肢体。
その、背中に人が持ち得ないはずの真っ黒な翼が広がっていた。
「だ、…って…あ、ああ、やだぁっ」
ぐりん、と持ち上げて落としながら腰を回され、言い訳は嬌声に飲み込まれる。
(も、やだっ…)息も絶え絶えで、それでも枕元の時計に目をやり…ぎょっとする。
(11時…54…分!?)
あと6分で今日が終わる。
夜が明ける。扉が閉まる…魔界への。
(…ヤバ…い。早く、こいつ…イかせなきゃ…)
イかせて精気を吸い取って……。ああ、なのに。
「やぁ、あ、ああ、ん…んっ、ん…」
どうして響くのは自分の声ばかり?
(…ち、くしょ…)
情欲と悔恨の涙で瞳を潤ませながら、少年…エドワードは12時間前を思いおこしていた。
「…ふ〜ん、ここが下界かぁ」高いビルの屋上に腰かけ、エドワードは足を空に遊ばせていた。
誰かに見られれば、すわ!自殺者? と大騒ぎになるところだが
間違ってもその可能性はなかった。なぜなら。
「なんだか、上も下もごちゃごちゃしてんな…ニンゲンって変なとこが好きなんだなぁ」
その呟きのとおり、彼の背中からは小振りな翼が伸びている。
真っ黒なコウモリそっくりの、それ。
同じ形のツノが頭に、そして燕尾服のように大きく切れ上がった上着の裾から
尻尾が覗いていては『人』と思えというのが無理な話で。
「……ま、いいか。コレだけたくさんいれば、一人くらい好みに合うヤツいるだろ」見下ろす街並みはオレンジの渦。
そう、今日は10月31日…ハロウィンであった。
人間達は「トリック オア トリーツ」のお祭り騒ぎであるが、エドワードたち魔界の住人にとっては、年に一度人界との門が開く『狩り』の日。
日頃は魔界との狭間に落ちた魂や獲物で我慢しているが
今日に限っては無礼講。早い者勝ち、である。
(ま、上級魔には、カンケーないんだろうけど、な)
なにしろ魔貴族クラスになれば自由に世界を行き来できるほどの力を持つという。
(っていうか…天界にでも近づけるんだよな)
それは絶対のタブーとされているが、できることは確かである。なぜなら。
(……あの、クソ親父が…そういうことしたから!!)
エドワードの父は4大魔族の長である。しかして奔放かつ探究心に富む性格が災い(?)して、ある日天界に入り込んでしまった。
摑まりあわや消滅……というところを救ってくれた大天使に一目ぼれ。
そのまま掻っ攫って嫁にして、なんと子供二人まで作ってしまったのだ。
が、そんな天理に反した幸せが長続きする筈もなく…。
妻はまもなく消滅し、生まれた子供二人は…上級貴族にあるまじき低級魔
すなわち淫魔(インキュバス)となってしまったのである。
(一番ムカつくのは、元凶のアイツが結局無事だってことだよな!?)常々不公平を感じているエドであったが、力の差はいかんともしがたく
せめて淫魔として多くの下僕を作り、少しでも高位に上がろうとは思うのだが……。
(……むいて、ないのかなぁ…)
弟のアルフォンスは着々と女性を何人も手玉にとり…
契約者(契約があれば死後、魂をもらえるのだ)すら捕まえているというのに…。
エドだって頑張ってないわけじゃない。母譲りの女顔と悪魔らしからぬ金髪金瞳。
そんなマイナス要因(と、エドは信じている)にもめげず努力の末
これまでも何人かの女性とちゃんとベッドインしている。
…ただ。
(………どうして…女の人って…演技が上手いんだろう…)
みな、愛撫すれば反応するし声だって上げる。なのに。
(……ちゃんと、イかないんだもんなぁ…)
インキュバスに最も必要なのは達った瞬間に溢れる愛液と精のエネルギーで。
こればかりは、どんな上手に演技しても出せるものでは無い。
……だから、淫魔であるエドにはわかってしまうのだ。
それはすなわち。
(……俺って…インキュバスとしても…ダメって事!?)
ブンブンと湧き上がるいやな予感を振り捨てて、エドはそこから立ち上がった。雪こそ降らないが陽射しの無い今日はしんしんと冷え込み、早くターゲットを見つけないと
みんな、家へと閉じこもってしまいそうだ。
…『魔』は閉じた場所へは呼ばれないと入れない。それはいつの頃からか定まった制約。
だからこうして外で獲物を見つけなければ、中々上手く行かない。
(…急がなきゃ…)
すこし美味しそうなオーラのニンゲンには必ず先約の魔物がついている。
出遅れたのは否めない。
だからと言ってオーラの薄い獲物じゃ充分な効果は得られないし、
数をこなしてエネルギーを溜め込むほどの猶予も、ない。
(いや…あきらめるな…)
そうして。突然、覗き込むエドの視界に…奇跡のような輝きが飛び込んできたのは
それから一時間もたった頃。
「な、なんだ?…あれ??」
黄金…といっても良いほどに輝く明るいオーラ。一見、黒髪の普通のニンゲンなのに、歩くたび周囲に溢れる生命力。
「……うまそ〜」
本当に100年に一度出会えるかどうかの大物だ。エドの鼓動がどくんどくんと早鐘のように打つ。
「しかも、お誂え向きに……男、かよ」
ついてる! エドは心の中で小躍りした。
そう、エドはこれまでの経験から、今回は違う方法でのアプローチを考えていた。
要するに淫魔として必要なのは『達く瞬間の精エネルギー』であり、男女の区別は無い。それならば、わかりにくい女性でなく、手っ取り早い男性を狙えばいいんじゃないか?
男なら、エド自身そうであるからわかるが、刺激されれば感じるし…イク。
愛だの心だの考えず出来る。
(女はそういうの無いとちゃんとイかないんだ、とアルに言われた…)
すこぶるいい考えだ!と思ってアルに告げたら…ものっ凄い剣幕で反対され、
挙句、魔界の結界に閉じ込められた。
(…あいつも、心狭いよな…。いくら俺がいい考え思いついたって
…そうそうアルの成果を抜けやしないのに…)
そんなに俺が嫌いなのかなぁ…いくら出来の悪い兄だからって、最近冷たすぎる。
アルの思惑と心配はまったく逆方向にあったのだが、そんなことエドにわかるわけもなく。
「いいや。こいつから精気もらったら、結構俺も強くなれそうだし…がんばろっと」
見当違いの決意のもと、エドワードはその男〜ロイ=マスタングの前に降り立ったのである。
あ、あれれ? 短い読みきりのはずが…何故に続き物??
この話は、某所で拝見・強奪したRT嬢の『ハロウィン・エド』から生まれました。
彼女自身の設定とは大きく違うのですが、
パラレルとしてお楽しみいただければ嬉しく思いますVv