ばさり…。羽根の音を聞いた気がした。
俯きがちに家路を急いでいた男、ロイ・マスタングは気配を感じ、ふと目を上げて。「……ども」
いきなり眼前に現れた少年に、知れず息を呑んだ。
「なぁ、あんた…今、帰り? これから暇?」ニコニコと笑いながら声を掛けてくる。まるで旧知の友人か…ナンパのように。
(…知り合い…? では、無い気がする…が)
小柄で一見少女かと見間違うような姿態。すんなりと若木のように伸びやかな立ち姿。ひとつに編んだ金髪は軽やかに肩へと流れ、後れ毛がふんわりと幼い顔にかかっている。
おとなしそうな雰囲気の中で金に光る瞳が、くるくるとそこだけいたずらっ子のように瞬いていた。
(こんな子を…いくら私でも忘れる筈がない…)毎晩のように男女問わず寄って来る輩。思春期を過ぎる頃からどんどん増えて…。
顔など覚えていない相手などざらだが、ここまで印象的な存在を忘れるほど無関心でも、無い。
(今日は…ついて無いと思ったが…)
「……何か、用かな?」
ロイはふと覚えた浮き立つ感情を抑え、ことさら平静な口調で、そう問いかけた。
(………う、わ!)「…これから、暇?」
よく下界でニンゲンの男が使うという口調で話しかけたものの、次が続かない。
なぜなら。エドは目の前の人物にすっかり見ほれてしまってたから。
(な、なんだ、こいつ?)飛びぬけて美形とか言うわけじゃない。
そりゃ、整ってるが…はっきり言って『美しさ』だけなら魔族の中ではまぁまぁ、くらいで。
だけど…。
(印象…的)
そのまま視線と言葉を奪われて立ち尽くしてたら男の唇が動いた。
「……何か、用かな?」
低くて…だけど低すぎず…甘くてよく通る…。とにかくもろにツボな声、に
どう誘おう、何て考えてたエドの思考はふっとび、思い切りストレートな誘いが飛び出してしまった。
いわく。
「あのさ、俺と…エッチしない?」
(しまった!)
相手が一瞬目を見張ったのがわかり失態を悟る。こんな子供みたいな誘い方で落とせる相手じゃない。
「…あ、ごめ…そうじゃなく…」
上手い言葉が見つからない。どう取り繕ってもしたいのはソレであり。
(あんたの精気くれ、とも言えないしなぁ…)
もごもごしてたら恥ずかしがってると誤解したのか軽く笑いを含んだ声で。
「別に構わんが…。なぜだ?金でも欲しいのか?」
(いや、だからエネルギーがほしいだけなんだけど〜)
違うと首を振りかけ、でも…と思い直す。
(…お金…。下界の、あればアルになんか土産でも買ってやれるかな?)
Hしてエネルギー貰ってパワーアップして、その上みやげなんて渡したら……。
(ちょっと、カッコよくねぇ?俺)
……こういうのをニンゲンの言葉で『魔がさす』というのだと、魔であるエドが知る由もなかった。
金が欲しいのだと頷く少年をロイは不思議な気持でみていた。金のためのSEXなど一番嫌いな行為のはずなのに、何故か彼が言うと許せる気がする。
(余りに…罪悪感が…ないから、か?)
それ以上に、既に自分がこの少年に興味を引かれてることが原因かもしれない。
どんな理由だろうと、この身体を味わってみたいという欲望が心の奥から湧き上って来る。
それは、この男にはじめての感情だった。
渇望。
寄って来るに任せて男も女も抱いてきたが、男色でも少年趣味でも無いつもりだった。
それなのに、初対面のこの少年にはひどく心動かされる。
「……わかった。それじゃ…」
「エド。エドワードだよ」
視線で問う名前にすんなりと答えが返る。こういう勘のよさも好ましい。
「私の部屋に行こうか」
回した腕にすっと入り込んだ身体は、あつらえたようにぴったりとはまった。
「それじゃ……おいで、エドワード」
黙ったまま男、ロイ・マスタングの部屋へと向かった。出会った場所から2ブロック先の屋敷。
玄関への小道を歩く時も鍵を取り出す時も、ロイはエドの肩をしっかりと抱き締めていた。
まるで逃げ出すのを恐れるかのように。
(そんなしなくても、たっぷり精気貰うまで逃げやしねーのに。…ばっかだなぁニンゲンて)
内心の呟きを隠しエドは従順に従う。気が変わられてはたまったもんじゃない。
そう、逃げるわけ、無い。
間近に甘い香りの上質なオーラを感じ、エドの本能は既にズキズキと脈打っている。(…たっまんない。こうしてるだけでもう精エネルギー流れ込んできそう)
指先が期待でぴりぴりする。
これでこの男の精液なんて飲んだら…。
喉を下る熱い命の迸り。想像してエドの細い喉がコクン、と動く。
(どんな気持いいだろう…)
寝室に導かれた時、エドの瞳は既に夢見心地であった。
(…不安、なのか?)一言も言葉を発さないエドにロイはちらりと視線を落とす。
男娼には見えない。そう本能が告げる。
恐れく何らかの事情があってこういう形で金を得る道を選んだのだろう。だが、逃がす気など欠片もなかった。
(私は運がいい…)
おそらくは経験も浅いであろう少年。彼が他の誰かに身をゆだねてるところなど考えたくも無い。
(金なら、満足するだけやろう)
そしてあらん限りのテクでこの身体を開き、自分無しでは居られなくしてやりたい。
(……われながら、危ない発想だな)
どうしてこの少年にだけそんな気分になるのか……そんな事を考える冷静さは、もはやロイにはなかった。
「シャワーを浴びて…ベッドへ」
ロイの一言が、狂乱の夜の幕開けだった。
さても次からRです。お待たせお待たせ。前置き長いなぁ(笑
要するにお互い一目ぼれなんじゃないの?と突っ込みたい所です。
どうしよう次回は裏に回すべき??きっと、えらいことに!?
ま、いまさらか(汗