はじめにご注意

この小説は鋼世界のパラレルです。

設定はアメストリスですが、その世界でロイとエドは幼馴染という…

何とも微妙な世界です。

それでもついていける!という剛毅な方は下スクロールでどうぞ♪

 

 












 

   朝日の中で微笑んで…
                〜アメストリス異聞〜







「…出撃だ、私に続け!」

「はいっ、たいさ」

俺は精一杯の虚勢で大声を出すと、『大佐』と呼んだ人の背中を必死で追いかけた。

 朝もやの山道。高い草の露が膝まで濡らしたけど気にする余裕もない。

 ほんとは昨日捻った足も痛かったし、おなかもすいてたけど…

 ここでへこたれたら、なんかに負けた気がするから。



でも。

 「あっ!」 


5歳の子供が気合だけで歩けるほど山道はやさしくはない。

 張り出した草の根に足を取られ、俺は再び転んでしまった。

 「…エド?…もしかして足痛めてるんじゃないか?」 

そう、優しい瞳で問いかけてくるのはもちろん本物の大佐

 …なんかじゃなくて、俺んちの隣に住んでるロイおにいちゃん。


 小さいころから自分を知ってる相手に嘘なんて通じる訳ない。

 反論する間もなく、俺はあっという間に背負われてしまった。

 …それが、悔しくて我慢してたのに。



 「………ごめん…なさ、い」

 ぼそりと謝れば笑って

 「それは心配して待ってるお母さんと、…アルフォンスにいうんだね」

 「……う…」 

俺はただただ背中で俯くばかり。 




昨夜、アルと喧嘩した。

 なんでかも忘れたような喧嘩だけど、とにかく腹が立って家を飛び出し 

こっそり裏山に入っていった。 

絶対アルは俺がいなきゃ泣くから…だから。



 それで、しばらくしたら帰って仲直りしてやるつもりだった。



 …けど。 気づいたら帰れなくなってたのは、俺だった。 

夜の闇に巻かれ、しかたなく大きな木の上で一晩過ごし。

 翌朝、俺を見つけたのは、ロイおにいちゃんで……。














 ぽかり。 

不意に訪れる、目覚め。



「……ゆ、め…か」 

何だか懐かしい夢を見た。 

エドワード・エルリックはベッドの上大きく伸びをする。

 その姿は夢の中と違いもうすっかり大きくなっている。

とはいえ、じき十歳になろうというにしては、幾分小柄ではあったが…。



もう五年近く前の大切な思い出。

 すっかり気落ちした自分を励ますように、

大好きな戦いごっこのふりで家へと連れ帰ってくれた人。

 十四も年下の子供に根気よく付き合ってくれた青年も 

いまではすっかり本物の軍人となって……。



 

(軍人なんかに…なっちゃうから……) 



「…さて、と。今日もピナコばっちゃんに頼まなきゃ」 

沸き起こる怒りとも焦燥とも付かぬ思いを振り切るように大声を出し、よっ!と起き上がれば、

射し込む爽やかな朝日が伸びかけのエドの金髪をきらきらと揺らした。



 「ほら、気をつけて行っといで」 

毎朝、ピナコばっちゃんは弁当と飲み物の入った籠を用意してくれる。

エドの頼みに嫌な顔ひとつせず。 

「で、どうなんだい様子は」

 「相変らず、かな。でも、食べてくれるようにはなったから…」 

そう告げればやれやれと笑って。 

「あのこは昔から真面目だったからね…。向かなかったんだよ」

 軍人なんか…。




そう続くいつもの繰言を背に、籠を受け取ると

エドは村はずれの一軒家に向かって歩き始めた。 

そこに一人住む、『ロイお兄ちゃん』を訊ねる為に。 








村でも有数の錬金術の使い手だったロイは、エドが戦いごっこを卒業する頃に、

本物の軍人となって村から出て行った。

 国家錬金術師となり『焔』の二つ名を戴いた彼はエド達少年仲間の憧れと夢の象徴で。


 しかし。



 期せずして起きたイシュバールの反乱。続く国家錬金術師の人間兵器としての投入。

 戦争が終結し、幼い頃の称号のまま『大佐』となって一時帰宅したロイは

…既にあの頃のロイではなかった。







 『…エド、か?』 

家には居ないと言うおじさんたちからなんとか居場所を聞きだし、

村はずれの廃屋に近い一軒家を訊ねて、ノックした。

 扉を開けたロイの姿を、エドは今でも忘れる事が出来ない。

 ぼさぼさに乱れた髪、薄らと無精ひげを生やし…

なにより、あんなに生き生きとしていた瞳に…何の感情も無かったのだから。

 

 『無事で帰ってこれてよかったね』 

『イシュバールの英雄って皆が褒めてた』



 用意してた言葉は全部凍って。 




何も言えない俺にただ困ったように視線を投げると一言。

 『…もう、来ない方が…いい…』 



生きることを放棄したようなその姿に……

口を閉ざしたおばさんたちの気持が少しだけわかった気がした。





 だけど、わかる事と納得する事は違う。


 (あんな、ままじゃ…ダメだ) 

子供だから出来る直感的な判断。

 そうして次の日から、エドの『戦い』が始まったのである。

 


◆ ◆ ◆

 

ノックを三回。


そうして鍵もかかってないドアを大きく開く。 

「おはよ。ちゃんと昨日の食べた?」 

言いながら相変らず締め切ったままのカーテンをあけ光を入れる。

机の上に手付かずの夕食の残骸。

溜息を飲み込んで窓を半分開き、空気を入れ替える。

 「今日はね、サンドイッチにしてもらったんだ」 

天気もいいし、部屋でピクニック気分もいいかなって。 



取りとめもなく不自然に明るいエドの声だけが響く。

部屋の主は同意するでなく止めるでなく、 ただ静かにテーブルに座っている。

まるで、エドが納得するまで諦めたように。 



(…ロ、イ……)   胸が痛い。



 何があれば人はこんな風に絶望できるのか。

 いったい何を見て何を感じてきたのか…。



 エドだって普通の子供ではない。

父が居なくなり…母が死に、隣のロックベル家に世話になりつつ、

それでも弟と二人、なるべく自分達だけで生きようと…それなりの苦労はしてきた。

 それでも戦争なんて状況は、どんな想像してもわからない。

でも、とエドは考える。

 (多分、今、ロイ、に要るのは…もっと根っこの力) 

それは、食べることだったり明るく暖かい太陽の光だったり

 爽やかな緑の風だったり…そんな、生きてることの根っこ。





 だから、エドはこうやって毎日通うのだ。ロイを世界から切り離さない為に。 




「はい。今日はコーヒー淹れてみたよ。昨日習ってきたんだ」

 一人話しながらサンドとコーヒーを差し出せば、

薄い笑みを貼り付けたロイが受け取り黙々と食べ始める。諦めたように。

最初の頃、食事を置いて帰ってたら全て手付かずで、

だから最近ではこうして食べ終わるまで傍にいることにしている。


 
「……ごちそうさま」

 ぼそりと落とされる呟き。 


それは…食べ終わったから帰れ、との宣告で。

それでもエドが毎日一回だけ聞ける…大好きなロイの声だった。

 「うん。じゃ、お昼と夜の分置いておくから…食べてね」 

ほんとならずっとでもここに居て、毎食食べさせたかったけど

学校も弟との生活もある自分にはこれが精一杯で……。 

そうしてまたエドは長い道を一人村へと帰るのだった。

……そう、いつもで、あれば……。




 (…ロイには、迷惑なのかな…。だよな…)

 帰り道はいつも不安になる。


自分を追い出す為に咀嚼される食べ物。

それでも食べてくれればいいんだ、と割り切ったはずなのに、時々泣きたくなって。



( だって元気になったら…また、軍人に戻っちゃうんだし) 


『イシュバールの英雄』を世間はそう簡単に忘れてくれない。

 それでまた、あんな戦争があったら……。 



がさり。 

不意に草叢が揺れ……。



 物思いにふけっていたエドが気配に気づき、顔をあげようとしたその時…

視界が一気に暗転した。

 

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なんだか、また微妙なもの書き始めてしまいましたよ(笑
もともと、某アンソロ用に思いついたネタだったんですが
余りに長くなりそうだったのでこちらで書くことにしました。

要は『イシュバールのロイの傷をエドが癒して欲しいなぁ』
という願望だったんですが…どうなることやら。
そんな長くならず終了の予定です、ええ。

 

 

 

 

 

着声台詞がお題でした。

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