STOP! くろこくん 〜ハロウィン・計画編〜
                   (注:黒子が まっ黒子さま です)

 



「黒子、頼むから付き合ってくれないか?」
ほんの一瞬の隙をついて。
さほど大きくもないはずのセリフが、狭い空間に響いた。
ざわっと、室内の空気が揺れる。余りに場にそぐわない言葉に。

ウィンターカップ予選前の、疲れ切った男だらけの部室。
寒い季節に向かうにもかかわらず、皆が汗まみれの身体を拭って着替えている。
そんな光景に『付き合う』と言う単語は、ミスマッチ過ぎるだろう。
が。
「木吉先輩。目的語がなければ判断できません」
平然と返された声と「ああ、そっか」という気の抜けた返事に、部員の注意は一斉にそれた。
一瞬でも『付き合う』と言う単語に、甘酸っぱい響きを感じた我が身に頭を抱えながら。
「だよなぁ」
降旗の小さなため息に、他の一年が交互に頷く。
なにせ天然としか言いようがない二人だ。深い意味があるとか考えたら馬鹿を見る。
裏付けるかのように「実はだなぁ」とのんびりとした声。
その後に続く会話に耳を澄ましていたのは、離れた場所で着替えていた火神ただ一人だった。

◆◇◆◇◆

「で、これがその理由だったんです」
黒子はぺらりと一枚のチラシをリビングのテーブルに置いた。
「ああ、これ、この前から宣伝してるヤツっスね」
「なんだ? かぼちゃの喰い放題か?」
黒子の反対側に並んで座った二人が、どれどれと覗き込む。
ひとりは面白そうに、もうひとりは面倒くさそうに。
「かぼちゃじゃありません、パンプキンスウィーツです。青峰くん」
あいかわらず言葉にデリカシーないですね。
黒子が呟けば「そうっスよ、青峰っち」と黄瀬が追い打ちをかける。
言いながら肩に掛けた手が、何かを主張するようにきゅっとシャツを握った。
「これ、オレも気になってたんスよ」
さりげない同意は、たぶん青峰に向けたもの。
黒子は黄瀬と目配せをかわすと、うんうんと頷いて見せる。
「そうですか。やはり木吉先輩は目の付けどころが違いますね」
「チラシに、目のつけどころも何もねーだろ」
オレだって知ってるぞと、ややつっけんどんな口調で肩を竦める青峰に、黄瀬からさらに冷たい視線。
「知ってるだけと、実際に誘うのでは天地の差っス」
「まったくです。黄瀬くんはわかってますよね」
この二人が組むと更にめんどくさいのを良く知る青峰は「あー、はいはい」と適当に頷く。
うららかな秋の陽射しが射し込むリビングで。
試合時の三人を知っているだけなら、目を疑うような和やかな光景。

と、その背後から地を這うような声が投げかけられた。
「つーか、なんでテメーら、毎回オレの家に来るんだよ」

声の主は少し赤みがかった髪の大柄な青年。
自宅にもかかわらずリビング中央を占拠された彼は、壁に大きめのクッションを置き凭れかかっている。
「うるさいです、火神くん」
「そっスよ。こんなデリケートな話題、外でしろって言うんスか? 友達がいのない」
「だけど俺にだって都合ってもんがだな」
「キミにバスケ以外の都合なんて存在しません」
火神の言い訳をさっくりと黒子が切る。と、黄瀬がにっこりとモデルの笑みを浮かべて。
「そっスよね。火神っちに黒子っち以上の用事とか、ないっしょ?」
同時に振り向く黒子と黄瀬の波状攻撃に、青峰がいくぶん同情の視線を流した。
夏休みから既に五回以上になるこの会合で、そろそろ学んでもいい頃だろうに。
バスケ以外となると、どうしてこうまで学習能力がないのか。
触らぬ神にたたりなしと天井を見上げる青峰の前で、金と水色の最強にして最凶のタッグが火神につめよる。
「だいたい、協力すると言ったのは火神っちからっスよね」
「キミの影であるボクが困ってるんですから、場所くらい提供してもいいでしょう?」
他には役に立たないんだからとばかり、たたみかけてくるの黒子のセリフ。
ぐっと拳を握ると火神は顔をあげた。
「あれは、おまえが……」
「ボクが、なんですか?」
黒子の手が携帯を握ったのを見て、火神はうっと声を詰まらせる。
「……なんでも、ねぇ」
一部始終を知らぬ顔で流して、黄瀬と青峰は視線で会話する。
(火神っち、懲りないスね)
(まったく。テツ相手に、無謀なやつだぜ)
黒子が掌で弄ぶ携帯の画面には『音声ファイル』の表示。
ボタンをあとひとつ押せば、簡単に録音された言葉が再生される。
その中身は、いわずとしれた火神の声だ。しかもれっきとした告白の。
『オレは、黒子が好きだ』
最初に聞かされた時はノロケだった気がする。少なくとも黄瀬と青峰はそう記憶している。
が、次に聞かされた時、それは立派な脅しのネタになっていた。
どういう会話の中でそれを黒子が引きだしたのかはわからない。というか、わかりたくもない。
だがまぁ、想像は容易についた。
中学時代には、赤司の人心掌握を間近で見ていた黒子だ。
良くも悪くもその薫陶をしっかり受けている。つまり、そういうことだ。
もっとも赤司と違って、使うのは恋愛関係においてのみ、ではあったが。

「火神くんは、ボクの味方ですよね?」
まっすぐ、まるで邪気のない瞳で黒子は見つめる。
それが一番のくわせものなのだが、判っていても逆らうのは難しかった。
「黒子っち、やっぱすげぇっスよね」
見つめ合う火神と黒子を横目に、黄瀬が呟く。
いつもならここまでじゃない火神が、なぜ今回に限って反抗しているか。
きっと、初めて木吉からのアクションがあったからだと黄瀬は踏んでいる。
終わったとはいえ、まだ火神は黒子に多少の執着があるのだ、きっと。
そして、それを知りきったうえで、黒子は上目使いで覗き込んで。
「……かがみ、くん」
火神は「ああ、くそ」と頭を抱えて再び床に蹲った。
「わかったよ! でも今回はオレは手伝わねぇからな!」
「いいです。ただし作戦会議の邪魔、しないでくださいね」
そう、作戦会議。
この極めて不自然で必然的な顔ぶれは、黒子の『木吉先輩攻略作戦』のため集められたメンバーだった。

◆◇◆◇◆

ここまでの展開で薄々お気づきだろうが、黒子テツヤはホモだった。
それもおそらく筋金入りの。

「初恋ですか? はっきり覚えてませんが、ボクが幼稚園の時の体操のコーチだと思います」
中学時代初めて性癖を告白された時、青峰が聞かされたのはそういう話だった。
幼稚園の週一回、スポーツを教えに来ていた青年。
背が高く、なんでもできた彼は特にバスケがうまかったという。
「不器用で影が薄くて……皆から忘れられがちだったボクを、その人だけはちゃんと見て褒めてくれたんですよ」
それが嬉しくて、見てほしくて……苦手な運動も頑張ったんです、と。
頑張ったら、頑張っただけちゃんと見てくれて。それでますます好きになった。
幼稚園を卒業する時は、コーチと別れるのが悲しくて大泣きしたものだ。
そんな訳で気づけば黒子は、背の高いバスケがうまい相手に惹かれるようになっていた。
「青峰くんを見てると、不思議とあの頃を思い出すんです。……変な話して、ごめんなさい」
言い切って悲しげに俯く。
嘘ではない、と感じたし、気持ちもやや揺れた。
だが既にその頃、青峰の横には黄瀬が居て。「すまん」と頭を下げるしかなかった。
「いいんです。わかってましたから」
無表情に、しかし健気に呟く言葉。
うっかり釣られなかったのは、もっと泣きそうに笑う馬鹿を良く知ってたから。それでも。
「テツ……」
一瞬ほだされ伸ばそうとした手。
だがしかし、青峰の罪悪感は続く黒子の台詞に一気に打ち砕かれた。
「ま、そうくるかなとは思ってたんで」
「はあ?」
さらりとした声。見つめてくる瞳は、見たこともない含みの色で。
「青峰くんの好みは、ボクみたいな可愛い系じゃなくて、綺麗系なんですよね。……黄瀬くんみたいな」
「え」
豹変した空気に、狼狽を隠すこともできず固まる。
なんでだ? ついこの間、自分でもそう気づいたばかりなのに。
酸欠の金魚みたいに口だけ動かす青峰に、初めて見る笑みを浮かべ黒子は口を開いた。
「そうじゃないかなーとは思ってたんですが、確認できてよかったです」
「テ、テツ?」
「ああ、大丈夫ですよ。ボク、口は固いですから」
瞬間、青峰の野性は黒子を肉食獣だと判断した。侮ってはいけないと。
その日から、青峰と黄瀬と黒子の間にある種の同盟が結ばれたのであった。

一連の思い出話が落しのテクだと知ったのは、夏休み入ってすぐに火神がふられた時のこと。
同じ台詞を告げられ実は人情に弱い火神が落ちかけたところで……黒子の気が変わった。
原因は、もちろん木吉先輩の復帰。
「本当に良かったです、手遅れになる前で」
先輩の復帰があと少し遅かったら、すっかり火神と出来上がっていたかもしれない。
ギリギリセーフでした、と言い切る黒子に、黄瀬が肩を竦めて。
「いや黒子っち、充分手遅れだと思うっスよ?」
「火神くんですか。彼なら大丈夫だと思います」
「ダイジョーブっスかね」
「ええ、火神くんは打たれ強いですから」
夏休み前、一年だけの練習試合の後「ごめんなさい」と謝った意味は二つ。
一つはバスケで、もうひとつはそっち方向。
火神君は好きだけど、どうやらそういう好きじゃなかったらしいと、悪びれもせずに告げた。
『他に好きな人が出来ました』
言ってしまえばきっと相手が誰か思い当り、それ以上追求することもできないだろうと。
「火神くんは妙なところで勘がいいんです」
「黒子っち、あいかわらずクールっスね」
「そうでしょうか。無理につき合う方が、ボクは相手に悪いと思うんですが」
「てか、オレの前で、オレをフった話を、すんじゃねえ!」
「火神っち、いたんスか」
「ここはオレの家、だろーがっ!」
おそらくは意図犯の二人に、青峰は心のうちで火神に同情を寄せる。
火神が自分と同じ轍を踏むのは、ほぼ間違いないだろう。
こうして自宅が会合場所になった段階で、火神の負けなのだ。

黒子が恐ろしいのは、とんでもないことをしてると思うのに憎めないところだ。
無垢そうな外見と邪気のない瞳。そうして気づくと振り回されている。
小悪魔系とでも言えばいいのか。
さらにもっとたちが悪いことに、黒子自身が自分の強みを知りきっている。

名は体を表すというが、黒子はその名の通り『黒い子』だったのである。

◆◇◆◇◆

「木吉先輩は、あのコーチを思い出させるんです。今後こそ運命だと思います」
三人を前にそう告げた黒子の瞳はどう見ても本気で。
『あの頃』でなく『あのコーチ』なのに気づいた黄瀬が、黒子に協力しようと言い出したのが始まりだった、と思う。

「いや、だけど……黒子」
その話を聞かされて火神は二本にわかれた眉を、器用にしかめた。
よくくっつかないものだと思いながら、黒子は言葉の先を促す。
「なんですか、火神くん」
「いや、だって……木吉先輩はノンケだろ? どう見ても」
「それがなにか?」
問題でもありますか、と言わんばかりの視線に、火神は「やっぱいいわ」と口を噤む。
おそらく黒子にとって、相手の嗜好など取るに足らないことなのだろう。
「それをいうなら火神くんもノンケだったんでしょう?」
一応、と確認を取ってくる水色の髪。
「へえ」と興味深げな視線に、うっと声が詰まる。
確かに火神自身、黒子に落されるまで自分にそっちの趣味があるとは思ってなかった。
というか、むしろ恋愛自体めんどくさかった。
「あー、なのに……黒子っちでめざめたんスか。ご愁傷さまッス」
「別に、オレは! 違げーよ! ちゃんと女、好きだっての!」
慣れないからかいに、耳を赤くして反論する。
と、黒子がふっと視線を落として。
「帰国子女でバイとか。芸がないにもほどがありますよね」
ゲイだけに芸……じゃねーだろ。
心に浮かんだ突っ込みを飲み込んで、青峰はひたすら傍観者に回る。
半分おもちゃにされてる火神は気の毒だと思う。
思うが、ここで下手に動くと、どんなイグナイトが飛んでくるかわからない。
なにせ相手は黒子なのだ。
(あー、いい天気だなぁ)
思いっきり窓の外を眺めると、青峰は現実から逃避する。
なんでこの面子が居てバスケできねーんだよ、と少しばかり恨めしく思いながら。
その横で黄瀬が、声もなく拳を握る火神を尻目に「で?」と話を促した。
隣の彼氏の、忍耐力のカウントダウンが始まっているのを察して。

「つまりですね」と、黒子はほんの少し唇を舐めると説明を始めた。
「木吉先輩が甘党だってことは、前に話しましたよね」
「聞いたっス。でも、和菓子だって言ってなかったっスか? 黒子っち」
「そこはボクのリサーチ不足でした。ともかく、先輩はこのハロウィン限定のスウィーツバイキングに行きたいらしいんです」
「それでなんで、テツを誘うんだ?」
「だから青峰っちは駄目なんスよ。そんなん、口実に決まって……」
「なら良かったんですが、そう単純でもなくて、ですね」
楽観的な黄瀬のセリフを遮り、黒子ははぁとため息一つ。
「どうやら先輩は、ボクの前にカントクも誘ったらしいんです」
「ああ……」
こういうのに男ひとりでは行きにくい。と言うわけで頼んだらしいのだが。
『あたし、カボチャいまいちなんだ。ごめん』
そう言われてなぁ、と木吉は黒子に語ったのだ。
「あー、そりゃ脈ねえわ」
「……やっぱりそうでしょうか」
「青峰っち、うるさいっス」
らしくなくうなだれる黒子に、黄瀬が必死でフォローを入れる。
「でもその次には、黒子っちを誘ったんスよね?」
「そういえば、そうなんですが」
はっきりしない口調に、火神がやれやれと口を開いた。木吉の声音をまねしながら。
「『オレと日向がそんなとこ居たら、浮くだろう?』……だよな、黒子」
「聞いてたんですか」
「聞こえたんだよ、部室で話してんだから」
半分は嘘だが、言い切ると、話を続ける。
「でまあ、木吉先輩の知ってる中で一番、そういう場所に似合いそうなのが黒子だったと」
「………不本意ですが、おおむねその通りですね」
「それって、黒子っちが一番可愛いってことじゃないスか」
確かに、黒子となら浮かないと思うんだと言われ、すこしばかりときめいた。
だがしかし。
「それはそうですが、あの人が知ってる範囲なんて絶対バスケ部だけです」
その中で何番目のシュミレートで、自分に行き着いたのかわかったもんじゃない。
誘われたのはうれしいが、素直に喜べない。
木吉先輩の天然っぷりを知るだけに、ほめ言葉を真に受けてはマズい気がするのだ。

「でも、行くんスよね」
「……ええ、ぁ」
せっかくのチャンスですから、と言葉を繋げれば「なら問題ねーじゃねぇか」と青峰が呟く。
「まだウィンターカップ予選までに時間はあるし、休みがないわけじゃねーんだろ?」
「それは、そうなんですが……」
いつになく歯切れの悪い黒子のセリフに、黄瀬と青峰は顔を見合わせる。
「なんだよ、いったい。二人で甘いもん食いに行くだけだろ? なにがいったい」
「なに、オレらに相談したかったんスか? 黒子っち?」
乱暴になる青峰の声を引きとるように、黄瀬が黒子に問い掛ける。
ん? と甘やかすような極上の笑み付きで。
「それは……ですね」
「はい」
「…………を、…たら、いいか、って」
更に珍しく黒子の視線がどんどん下がる。まるで、照れてるみたいに。
「ん? なんスか?」
「だから……なに、着てったら……いいか、って」
「はああ?」
「んああ?」
予想の斜め下過ぎる回答に、青峰と火神がほぼ同時に奇声を発した。
俯いた黒子の耳が赤く染まる。
バシバシ、と二連続で平手を二人の頭に入れた黄瀬が「馬鹿はほっといて」と黒子に向き直る。
「そっスよね。黒子っちにとって初デートなんスから、悩みますよね」
一緒に考えるっスよ、と微笑みかければ、黒子はおずおずと瞳を挙げて。
「……う、ん」
「あー、可愛いっ! そんな顔する黒子っちとか初めて見たっス。反則っしょ、それ」
「う、ぷ! 黄瀬、くん。苦しいです」
不意にぎゅっと抱きしめられて、黒子は抵抗する間もなく黄瀬の腕の中。
息が苦しいと思った瞬間、べりっと力強い腕に引きはがされた。
「黄瀬、てめぇいい加減にしろよ」
「助かりました、青峰くん」
「えー……ちょっとくらい、いいじゃないっスか」
「よくねえよ!」
「困ります」
同時の突っ込みを馬耳東風と聞き流し。
本気なんスねぇ、と頷きながら黄瀬は、頭の中で黒子のワードローブを検索しはじめた。

◆◇◆◇◆

「うん、こんな感じでいいんじゃねぇスか」
さらさらと黄瀬の指がボールペンを動かす。
白い紙にざっくり書かれた洋服の形に、黒子はうんと頷く。
「そうですね。黄瀬くん、ありがとうございます」
「……ってか、アンタ、絵が下手だな」
「うっさいスよ、火神っち。チャチャしか入れないヤツは黙ってろっス」
「こんな普通のカッコでいいのかよ」
「青峰っちもうるさいっス。気負いすぎず、可愛いのが一番なんスよ。初デートっスから」
わいわいと、最終的に全員が頭を寄せての話し合いがひと段落する。
とはいえ、約二名はボケ要員みたいなものだったが。

あーでもないこーでもないと迷走した挙句「いっそ女装でいいんじゃね?」まで行きついた会話。
「別に、それで木吉先輩が落せるならボクは構いませんが」
似合うとは思いますし。でも、と。
「駄目だった時はどうなるかわかってますよね」
黒子が呟いた静かな声に、皆が我に返った。
結局、ここでも頼りになったのは、モデルとして色んな服を知ってる黄瀬だった。
「アーバンボーイのチェックシャツ買ったっスよね、ブルーの。あれにP.Gのオフホワイトのパーカー合わせて……」
「黄瀬、なんでおまえ、そんなテツの服、知ってんだよ」
青峰の素朴な疑問に、黒子が「ああ」と顔をあげて。
「中学時代から、ボクの買い物は黄瀬くんと一緒でしたから」
「そうなんスよ。オレのセンス、黒子っちに信頼されててっスね」
「それもありますが、黄瀬くんと行くとだいたいのブランドが割引になるので助かってます」
「あー、なるほどな」
大きく頷く火神。黄瀬が「黒子っち〜」と情けない声を出す。
「ひでえっス。オレ、割引券っスか?」
「いえ、もちろん信頼もしてます。黄瀬くんはカッコイイですから」
さらりと言い放つ言葉に黄瀬の顔がぱっと明るくなる。
「聞いたっスか、いまの。青峰っち」
「聞えてるよ、うっせえな」
「いちいち喜ぶな、うっとおしい」と青峰が眉をしかめれば「えー、だってアンタなかなか言ってくれないし」と。
「わかりましたから、バカップルの痴話喧嘩は終わってからにしてください」
「オレ、腹減ったからコンビニ行ってくるわ」
どうやら出番は無いと悟った火神が腰を挙げれば、青峰がひらひらと手を振って。
「あ、オレ、カレーパンとチキン二本でいーわ」
「火神っち、ソーダとココアも追加っス」
「って! 使いっぱかよ!」
ぼやきながらそれでも律義に走る火神を見送る三人。

結局、全ての話が終わったのはその日の夕方近くだった



                                   【ハロウィン・デート編に続く】
              

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