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コン…。小さな一回のノックで開く扉。
それは約束された、悪夢への入り口。
「良く来たね、エドワード・エルリック」
ゆっくりと開いたドア、その向こうに立つのは見覚えのある…見知らぬ『男』「……あんたが、呼んだんだろ?」
大総統の顔をした男性はそんな厭味一つ鼻にかけず、自分のデスクへと戻っていく。
仕方なく、エドが重い扉を閉めれば振り向きもせずに命令が飛んできた。
「ああ。鍵をきちんと掛けて、こちらへ」
その言葉の持つ意味に一瞬凍り付けば、試すようにふり返り笑ってみせる。
「此処に、来た…という事はそういう意味ではないのかね」
違うのならその足でドアを出て行けばいい、と出来もしない事知りつつ追い詰めてくる。楽しげな瞳。
「……ってるよ」
踵を返し扉に向かうと、自らの手で錠を降ろす。逃れられないように、この男の手から。
カチリ…。小さな金属音がエドの心に絶望の音を響かせる。
(…これで、…もう、おれは…)
自らが選んだのだ。自分のこの指で退路を断ち切って…。
「これで、満足か!?」
半ば自棄に近い開き直りで言い放つ。それしか、今の自分を保てる術がなくて。
だけどそんな子供の強がりなど、したたかな大人の前にはスパイスにしか過ぎない。
「それでは契約成立…ということでいいのだな。結構、結構」
椅子に腰かけ、まるで普通の書類の決裁のように軽く流されエドは拳を握り締めた。
震える指先が掌に食い込む。
(だけど…契約だって言うんならそれだけのものはきちんとさせてもらう)
「……俺が…あんたに従えば…黙っててくれるんだな」
「ああ、約束は守らせてもらおう」
「それじゃもうひとつ。コレは俺の…俺だけの問題だから、他の誰も巻き込まないと誓ってくれ」
必死で考えた願い。自分の過ちは自分で受け止めると決めたのだから。
「それはマスタングに手を出すな、ということかね?」
いきなり確信の名を上げられて息がつまる。でも此処でひるんだら、負けだ。
「大佐だけじゃない、俺の周り全部だ!」
これが聞き入られなければ、どんな結果になっても申し出は受け入れないつもりだった。
機械鎧の腕がいつでも錬成を起こせるようにかすかに動く。
「………。わかった、君以外をこの事実で糾弾することはしないと誓おう」誓約書でも書くかね? そう続けられて首を横に振る。
「いや。…あんたを信じる」
たとえどんな書類があろうが、大総統がその気になれば何の意味もありはしない。
それだけの力をもった相手なのだ。
「それは光栄だな」
ガタン、といつもの鷹揚さに似合わぬ音を立ててブラッドレイが立ち上がり、エドの傍に近づいてくる。
「では、これで契約完了かな」
「……ああ」
「そうか、それでは……」
すっとその大きな手が横に上げられたと思うと、ついで激しい痛みがエドの頬を襲った。
「…っ!」
咄嗟に庇いかけた腕を反対の手で押さえられ、逃げようもなくもう一回。
「口の利き方がなっていないようだな。マスタングはきちんと躾も出来ていないのか」
顎を取られ、持ち上げられる。口の中に広がるかすかな鉄の味。
「今後、私に対してそのような口調は許されないと思いたまえ」
改めて感じる膂力の差。男と女…以前に大人と子供なのだ。エドの背筋を冷たいものが流れた。
「わかったかね。本来”狗”には喋る必要などないのだよ」
「う…っ…」
片手で持たれているだけなのに、足がゆっくりと床から浮いていく。恐怖。
「わ…っ。わかっ…た。わか…りまし…っ」
苦しい息の中そう告げればふいに手が離され、支えを失ったエドはそのまま床にとくず折れる。
呼吸を整え、唇を拭えば手の甲を血液まじりの唾液が汚した。
「それでは、まずその口の使い方から教えねばならんな」そう哂った男の顔はエドの見知った大総統のものなんかじゃない、冷たい眼差しで。
「跪きたまえ」大総統の椅子に腰かけ寛いだ風情の男が目の前で立ち尽くす子供に命令する。
服従を誓わされたその身は従うことしか出来ない。
これから何が行われるか、予想だにできぬ幼い魂。
「……」
無言のままエドは軍靴の前に膝を落とす。やや意外な面持ちで。
(ひれ伏せばいいのか?それとも…靴でも舐めろって?)
こんな…いかにもな優越を見せ付けて喜ぶ安っぽい相手だとは思わなかった、と。
だが、エドは失念していた。自分が望まれている役割がなんであったのかを。
そのまま次の指示を待つ姿にブラッドレイの哂いを含んだ声がぶつけられる。
「やれやれ。従順なのはいいが、いちから教え込まねばならんとは厄介なことだ」
言葉とは裏腹に楽しげに、これからエドの前に開かれる世界をやんわりと暗示してみせる。
「おまえの差し出すものはなんなんだね、鋼の錬金術師」
言われてビクンと小さな身体が震えた。「それ…は。でも、…っ」
昨日始まったばかりの性の証で下腹は重く…鈍い痛みが時折襲ってくる。そんな状況で…。
真っ青になったエドの顔を面白そうに観察すると、男はことさら優しげに指示を出す。
「その身体では許されると、踏んできたか?そうして口約束だけでまた旅立とうとでも?」
「そんなっ!…そんなつもりは…でも、でも今日は…」
本能的な嫌悪と恐怖にエドの金の瞳が見開かれる。
この身体を許すと、そう決めるだけでも心が引きちぎられる。…なのに、そのうえ…。
「ああ、わかってる。心配せずとも、そこまで悪趣味ではないつもりだ」
おまえ次第だがな…そう続けられ、思わず見上げる視線で問いかければ淡々と。
「とりあえず今日のところは、口で満足させてもらおうか」
言われる意味が直ぐには理解できず、跪いた状態でエドは瞬時、惑う。
「その小さな口で銜えて、舐めて、しゃぶって…私をイかせてみろ、と言っているのだよ」
「え…」
わざと選ばれる下卑た表現。それはこれから自分が堕とされる処遇をまざまざと示していて…。
だけど、どんなに言い訳しようとそういうことなのだ。自分は今から好きでもない相手に全てを与える、隷属する。…狗として。
(しっかりしろ!自分で決めたんだろ!?)どんなに頭ではわかろうとも、根源を掴む拒絶感は拭い去れない。
(いいじゃないか、やっと女だってことが役立つんだから…)
少なくとも賢者の石や人体錬成の件で大佐を…ロイを、追い詰めることはもう無い筈だ。
好きな相手を少しでも守れるなら本望じゃないか。
どうせ最初から女の子としては生きられなかった身なんだから……。
そう、思うのに。
「出来ないなら、仕方ない。下の口で処理させてもらうがね」最後通牒ともとれる言葉に弾かれるようにエドは顔を上げた。
「いえ…わかりました。キング・ブラッドレイ…」
精一杯の精神力でまっすぐに自分を貶めようとする相手を見据え、エドはその身体をゆっくりと椅子へと傾けた。
「……ぅ…」震える手で男のズボンに手を掛け、ファスナーを降ろす。
冷静な表情と逆にすでにいくらかの硬度を持つそれを、目の当たりにしてエドは思わず息を呑んだ。
生まれて初めて見せ付けられた男性の欲望は赤黒く反り立ち、とても口に含めそうに無い。
「早く、したまえ」
「…は、い」
覚悟を決め、目を閉じて左手で支えた剛直に顔を寄せる。
初めてのキスすら知らぬ薄紅の唇が、そこから覗く小さな舌が、男の欲望に犯されていく様は
咲き始めの桜をゆり落とす残酷さにも似て。
恐る恐る先端を舐め、先だけをようやく含むと、苦しげに真っ赤な顔で仔犬のように舌を這わせる。
それは、男の嗜虐心を煽るに充分ないたいけさ。啼かせて、鳴かせて、泣かせて見たくなる。
「もっと大きく口を開けなさい。しっかり銜えこんで奉仕するんだ」これから、コレがおまえの主人になるのだからな、と。
「…うっ…う、ふ…ぅ…ぐっ…」
仕掛けてきた行為は口調とは全く一致しない激しさ。
荒々しく髪ごと後頭部を掴み固定すると、強引に喉の奥まで突きこんできた。
吐きそうになるのに、全然身動き取れなくて。まるでモノのように激しく前後に口腔を犯される。
(はやく…早く、終わって…)
眦に浮かぶ涙。
時折舌に感じる苦味に男が感じているのとわかるけど、どんなに時間が過ぎてもそれ以上にはならなくて。
「やはり…こちらでは無理なようだな。未熟者が…」含み笑いで悪魔の宣告が下された時には、エドは胸まで飲みきれなかった唾液で濡らされていた。
取り急ぎ一回、ここまで。続きます、エド受難。
鳥籠レベルの悲惨さかも(笑