「やはり、まだこちらでは満足させられない、か」
涙で潤んだ瞳でぼんやりと見上げるエドワードに、やんわりと微笑みかけながらブラッドレイが囁く。
「仕方ない。では本意ではないが、その身体、使わせてもらうとしよう」「え…」
数瞬遅れて言葉の意味を理解しエドが蒼ざめた。無意識に後ずさりするが掴まれた肩がそれを阻む。
「……それとも、もう一度頑張らせてくれ、と頼んでみるかね?」
ん? と楽しげに覗きこまれ、屈辱感で頬が朱に染まる。
頼め、と。自分からそれを銜えさせてくれと…懇願しろと…そう言っているのだ。
(そこまで…屈服しなくちゃ…いけないのか?)
契約の最初の日。ペットを躾けるには初めが肝心とばかりに、ことごとく立場を思い知らせようと。
(だけど、このままじゃ…ホントに…!?)言わせたいだけの脅しなのか、それとも本気でこの状態の自分を抱く気なのか。
いずれにせよエドの取れる行動はもう決められていて、逃れようなどない。
エドはコクンと小さく喉を鳴らすと、精一杯の勇気で口を開いた。
「も…一度…し…ます」「聞こえんな」
冷たく言い切られ、ゆっくりと息を吸い込む。
「お、願い…します。も、いちど…」
「もう一度、なんだね?」
見下ろされ、言葉に詰まる。言わせたい台詞はわかってる…けど、とてもそんなこと…言えそうにない。
エドは言葉の変わりに、再びその薄桃の唇をブラッドレイの猛り立つ欲望に近づける。
「ん…っ…ぅ…」
ちゃぷ、と淫らがましい音を立てさっきよりも深く口腔へと導けば、前髪をかき上げられて。
「…ふ、そういうことか。まぁ今回はこれで許してやろう」
よく顔を見せるんだ、美味しそうに銜えこんでる表情をな…と、嘲笑われても目を伏せることしか出来ない。
「今度は動いてやらんぞ、自分からきちんと奉仕してもらおうか」
楽しげに告げられた言葉に、瞳の奥が熱く滲んだ。
「ん、んっ…ふ、…っ…ん…」あれから数刻。
エドは幼い知識の中で思いつく限りの刺激をブラッドレイへ与え続けた。
しかし、それは当然のこと、単調で稚拙なものでしかありえない。
猫のように舐め、ゆっくりと身体を前後させ…。
冷静に考えれば「退屈」と言い切る大人の男相手にエドが敵う訳もなく。
仕掛けさせる行為すらブラッドレィにとっては『遊び』でしか…本来の目的の為の前戯でしかなかったのだが、まともに自分の性と向き合ったことのない『少女』にそれがわかるはずもなかった。
「…ふ…。う…っぐ…」喉の奥まで突き込まれ、今度こそ解放されるかとエドは耐える。
だが。
一瞬の後。むせ返りそうなエドの喉から、その昂りはずるりと抜けて。
「……やはり、どうにも不慣れでどうしようもないな。今日はもう時間も無い。口淫のやり方は次の機会に教えるとことしようか」
そうして続けられる悪魔の宣告。
「とりあえず今回はさっさと処理させてもらおう」タイムリミットだ、と。
「え…」いま…なんと言ったのだろう? この男は。
エドが驚きに見開いた目で思わず見上げれば、それはそれは満足げに頷いて。
「立ちなさい。…立って、そのまま奥の仮眠室へ」
仮眠室。大総統のそれはベッドと簡易シャワーを備えた部屋である事を、エドは知っていた。
『あんなトコにつけるくらいなら、実際泊まりこみの多いこっちにつけて欲しいっすよ』
不意に蘇るハボック少尉のぼやく声。そして…。
『そう思うなら、自分がそこを使えるくらいの力量をつけることだな』
ぼやいていても何も変わらんぞ、と…大好きな声が、鮮やかに意識を覆う。
低くて、良く通る…大佐の、声。
「……や、だっ」
思い出してしまった。あの人を。光の中、前を向いて…闇の中から、前だけを見つめて立つ綺麗な人。
(俺…っ。おれ…)
決めてきたのに。
…どんなになってもかまわないと。大佐を、アルを守って…償って…。
自分が女であることとか、生まれたばかりの恋心とか…全部捨ててきたはずだったのに。
そうして。
束の間生まれた躊躇が、エドを更なる地獄へと落とす引き金となる。男の耳に届いてしまった拒絶の言葉。
それは目の前の支配者に向けられたものではなかったのだけれども…。
「まだ理解できないのか? おまえに何かを決める権利など無いのだと」「え…、ひ、あっ!」
エドの胸のうちなど知る由もない相手には、それはただの反抗の言葉でしかなく。
いい訳する暇も与えられず、しゃがみこんだ身体を持ち上げられ足が宙に浮く。
「ん、ぅっ!」
そのままうつ伏せに執務机に押し付けられた。ぐいと腕を引かれれば足が床から離れて、乗り上げた格好になる。
使い込まれたマホガニーの机は、エド一人上に乗せても微動だにしない。
「躾は最初が肝心だ。良くその身で思い知っておくが良かろう」
手近に何かを探すように机の上を見回し、ブラッドレイは電話のコードを根本から引きちぎる。
男の手の中でそれはしなやかな縄となりエドの自由を奪っていく。
「痛…ぁ…っ」
両手を伸ばした状態で肘近くをきつくグルグルと巻かれ、腕を曲げる事も上体を持ち上げる事も出来ない。
まざまざと力の差を見せ付けるように、ブラッドレィは悠々とエドを封じ込めていった。
痛みにぼやけた視界が戻ると、正面の磨かれた窓に自分を押さえつける支配者の顔が見えた。
ガラス越しに眼が合えば、穏やかともみえるほどの微笑を浮かべて。
「痛みは快感に、快感は痛みに、それは瞬時にすりかわるものでね…」
「あ!…や、…いやっ!」言葉に気をとられた瞬間、ズボンの前に廻り込んだ指がいとも簡単に釦を外し、緩めた。
「いやだ、やだ…。お願い、です…。やめ…て」
それは聞きれられる筈のない懇願。あがこうにも床から浮いた足では踏みしめることも出来なくて。
「やあぁぁっ!」
すとん…と遮るもののない下半身から下着ごとズボンが落とされる。
肌に触れる外気にエドは総毛だった。
(いや、だっ。こんな、こんな…時に…)
誰にも見せたことのない『秘密』を晒され、背後から観察されてエドは狂いそうな羞恥に瞳を閉じた。
だからといって、何から逃れられるわけでも、もちろん無く…。
「…ふむ、なるほど。半信半疑だったが…」立派な女性というわけだ…と、半ば閉じた花びらにいきなり指を突き立てられ、エドの背が反り返った。
「ひっ…い、いやぁ…ああ、あ…」
くちゅという湿った音。同時にそこに留められていた血がコポリと流れ落ち、生温かく足を濡らしていく。
「おや? こんな状態の体でも男をしゃぶって感じていたのか?…子供のくせに…」
覆いかぶさって耳元で落とされる嘲り。
その刹那。張り詰めていたエドの心が崩れた。
生まれてずっと、教えられてからは尚のこと…『男』であろうとしてきた。違う性であるが故にその渇望は激しく…結果、いつも誰よりも乱暴で無鉄砲な『少年』でありつづけた。
その、心が。
「いっ…いや!いやいやいや…あっあ、ああ、あっ…」壊されてしまえば曝け出されるのは、無垢なまでに弱い『少女』の魂。
もうそこには最年少の国家錬金術師も、禁忌を犯し地獄を見た少年もいない。
「あ、ああっ…ひぅ…く…あ、あ…いや、ぁ…」
まっさらな心、真っ白な身体。知らず零れ落ちる泣き声は哀しいまでに弱くて。
引き裂かれるのを待つ獲物。それはなんと甘美な誘惑だろう。
「快感はこれからいつでも覚えていける。まずは痛みを刻み付けたまえ」残酷なまでに高らかな宣告。
腰に手を回されエドがビクンと反応する。泣き声が止まったのを見計らい、ブラッドレイの手がエドの口の中に赤いコートの端を突きこみ銜えさせた。
「んむ…、ぅ…ぐ…ん、んっ」
乾いた硬い布が柔らかい口腔を犯し、唾液と声を奪い取っていく。
「あまり大声を出すのも具合が悪かろう、お互い」
いいながら、秘所にあてがわれる、熱い塊り。
「…ぅ…」
予想外の早い行為にエドは身を竦める、が。
ずくり。
体内から知らない音が聞こえ……ついで生木を裂かれるような痛みがエドを襲った。「ん…んぅ…う、ぐ…」
徐々に自分を裂いていくその痛みは、最後に奥の扉に遮られる。
エド自身意識したことのないほど、体の奥。
一瞬止まった侵略に力を抜いた瞬間…
ちいさな哂いとともに強く突きこまれ、これまでと比にならぬ激痛がエドを襲った。
「ーっ!!!」
発した筈の悲鳴は口を押さえ込まれ布に吸い取られる。なんの準備も前触れも無く、大人の凶器で切り裂かれた小さな蕾。
逃げようにも覆いかぶさられた子供の体は動かすことも出来ず、
ただ男の胸と机の間でビクビクと痙攣するばかりで。
「ああ、やはり濡らさずとも血がいい潤滑剤になるものだな」何も映さぬ瞳を見開いた少女を意にも介さず、残酷な征服者は淡々と語る。
「幾分冷たいが、まぁ、我慢できぬほどでもない」
なかなか女性は許してくれぬのだが、一度こういう遊びをしてみたくてね、と。
楽しげな笑みを口元に浮かべると、半分意識を失った子供の口からぐしょぐしょに濡れたコートを引き出す。
「どうだね、初めての男の味は?」
「……ぅ…うぁ…っ…」
裂かれた箇所を軽く突き上げられエドの口からうめきが漏れた。
何を聞かれても、言われても、意味のある言葉など紡げなくて。
「これが、おまえの選んだ道だ。鋼の錬金術師」
告げられた言葉とともに、エドの意識は闇にと落ちていった。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
でも、予定調和。
鳥籠レベルの悲惨さかも(笑